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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2022/07/05
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WEBマガジン「リカル(LIQUL)」連載
   【カクテル・ヒストリア第22回】
     エイダからシャノンへーー受け継がれる魂
 
 ◆スタートはフラワー・ショップ、28歳で抜擢
エイダ・コールマン(Ada Coleman 1875–1966)=写真左下=と聞いて、すぐに誰かと分かる方はバー業界でも少ないだろう。ロンドンのサヴォイ・ホテルで23年間バーテンダーを務め、女性として初めてチーフ・バーテンダーに就いた人である。

1898年、23歳のコールマンは、サヴォイ・グループのあるホテル内のフラワー・ショップでそのキャリアをスタートさせた。その後、1900年頃、同じ系列のクラリッジ・ホテルのバーに移る。そこで酒類やカクテルの知識、バーテンディングの基礎を教わったコールマンは、バーテンダーとしての才能を徐々に開花し始める。

実は、コールマンがバーで働き始めた20世紀初頭、ロンドンのホテルバーで働く人間の半分弱は女性だった。とくに商人や工場労働者等の若い子女が目立っていた。彼女たちは「バーテンダー」ではなく、「バーメイド」と呼ばれた。長時間労働にも関わらず、彼女たちにとっては、バーは「他の仕事よりも単調でなく、収入も良い」職業だった。

一方で当時、女性の職業として「バーの仕事は肉体的、道徳的によくない」という考えもあって、女性を排除する動きもあったが、コールマンのバーテンダーとしての才能を見込んだサヴォイ・ホテルグループのオーナー、ルパート・オイリーは1903年、いきなりサヴォイ・ホテル「アメリカン・バー」のチーフ・バーテンダーに抜擢した。このときコールマンは28歳。バーの顧客には、マーク・トウェイン、マレーネ・ディートリヒ、チャーリー・チャップリンというセレブもいたが、彼女は誰からも厚い信頼を得て、「コーリー」という愛称で呼ばれた。

 ◆現代でも人気を誇る「ハンキー・パンキー」
コールマンが生み出したオリジナル・カクテルで一番有名なのは、ハンキー・パンキー(Hanky Panky)だろう。ハンキー・パンキーはジン、ドライ・ベルモット、フェルネット・ブランカというシンプルな材料でつくられるカクテル(詳しいレシピは本文末尾で紹介)。21世紀の現在でも、世界のバーでよく飲まれているカクテルベスト50の常連である(Drink Internationalの調査ほか)(写真右=開業当時のサヴォイ・ホテルを描いた版画)。

誕生のきっかけは、サヴォイの顧客でもあった、コメディー俳優チャールズ・ホートリーの注文だった。ある時、ホートリーが「コーリー、私は疲れてるんだ。少しパンチのあるものをつくってくれ」と頼んだ。コールマンが提供した新しいカクテルを口にしたホートリーはこう叫んだという。「これは本当のハンキー・パンキー(当時の英国では「手品」「魔法」との意味の俗語)だ!」。

ちなみに、アメリカン・バーには、コールマンの前にルース・バージェスという女性が働いていた。なのでコールマンは2人目の女性だった。しかし、2人はそう仲は良くなかったようだ。当時の関係者の証言によれば、コールマンはある時、バージェスに人気のある飲み物のレシピを聞かれた際、教えることを断った。このため、2人の女性は互いほとんど話すことなく、在職中はずっと別々のシフトで働いたという逸話も伝わっている。

 ◆米国からの顧客のクレームが遠因で
1925年、サヴォイ・ホテルは突然、コールマンとバージェスのバーからの引退を発表した。引退は本人からの申し出ではなく、顧客からのクレームが遠因である。禁酒法施行に伴い、アルコールに飢えた米国人客が増えたが、女性の社会進出に対して保守的な彼らは「バーは女性が働くにはふさわしくない」とコールマンのカクテルやその存在を敬遠するようになった。そして、そうしたクレームに負けたホテル・オーナーが彼女たちを排除してしまったのだ(写真左=エイダ・コールマンのオリジナル・カクテル「Hanky Panky」)。

コールマンの後任に座ったのは、米国から帰国し、すでに1921年からアメリカン・バーで働いていた、かのハリー・クラドックだった。クラドックがコールマンに対して、どのような評価や思いを抱いていたのかを伝える記録は残っていない。しかし、その後出版した『サヴォイ・カクテルブック』でも「ハンキー・パンキー」を収録したことからも、彼女への敬意は忘れていなかったはずだ。

バーを去ったコールマンのその後は、詳しくは伝わっていない。サヴォイ・ホテルのフラワー・ショップで再び働いていたという話もあるが、それは作り話だという説もある。晩年は別のホテルのクローク・スタッフとして働いていたが、1966年に91歳で亡くなった。

 ◆119年ぶり2人目の女性チーフが誕生
2016年、米国のカクテルやお酒の専門サイト「Liquor.com」はコールマンをカクテル史上最も重要な9人のバーテンダーの1人として選んだ。そして、2021年、素晴らしいニュースがサヴォイ・ホテルから届いた。「アメリカン・バー」の第13代目のチーフ・バーテンダーに、シャノン・ティーベイ(Shannon Tebay)=写真右((C)サヴォイホテル公式HPから)=という米国人女性を迎えると発表したのだ。女性がチーフになるのは119年ぶり、米国人がチーフになるのはもちろん初めてという。

ニュー・メキシコ州出身のティーベイは、アートを学ぶために滞在していたニューヨークのバーでカクテルと出合い、そのクリエイティブな面白さを知り、バーテンダーの道を歩むことになった。そして、マンハッタンにある有名店でミクソロジストとしての腕を磨いてきた。

ティーベイは就任に際してのあるメディアとのインタビューで、「もし誰かにカクテルをつくるなら、誰につくってみたいですか?」と尋ねられ、こう答えた。「エイダ・コールマンです。私はたまたま2人目のチーフ・バーテンダーに選ばれただけ。エイダにカクテルをつくれるならとても名誉なことですし、私たちは話したいことがいっぱいあると思う」。ティーベイにとっても、やはりコールマンは特別な存在だったのだろう。多彩な経歴を持つティーベイが、「アメリカン・バー」にどんな歴史を創っていってくれるのか、楽しみで仕方がない。

【ハンキー・パンキー(Hanky Panky)】ドライ・ジン(Dry Gin)30ml、スイート・ベルモット(Sweet Vermouth)30ml、フェルネット・ブランカ(Fernet-Branca)2dash、オレンジ・ピール(Orange Peel)、シェイクしてカクテルグラスに。


・WEBマガジン「リカル(LIQUL)」上での連載をご覧になりたい方は、こちらへ

・連載「カクテル・ヒストリア」過去分は、こちらへ





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Last updated  2022/10/19 11:17:06 AM
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うらんかんろ

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