NHK・BS2が1年間かけて放映してきた黒澤明歿後10周年記念の全30作のシリーズがまもなく終わる。私は毎回楽しんで見てきた。今夜は『影武者』(1980)が放映された。
なんと最後のスタッフ・キャストのなかに、高校時代の演劇部の後輩上田ボッコの名前を発見した。いままで全然気が付かないできた。大勢の武者役のひとりなので、その姿を確認することはできなかったが、驚きもし嬉しくもあった。だって、黒澤映画に名前が刻まれているのだから。
彼とは演劇部以外でも童劇プーポで共演しているし、なにしろ上手かったので私が演出した舞台でも主役を演じてもらった。
ボッコ、元気ですか! もう、45年もあっていませんが・・・
そんな驚きをした『影武者』だが、じつは私は黒澤作品としてはいささかの不満も感じる作品なのだ。設定にあまり説得力がない。出演俳優には申し訳ないが、織田信長と徳川家康は、大抜擢はいいが、画面のなかにどっしりと定着していない。俳優というのは不思議なものだ。人間の「重さ」というのは、どう演じたらよいのだろう。
影武者が悪夢にうなされる、その夢の長いシークエンスも私は興醒めだ。
後半はすばらしい。あれだけの数の人馬の戦闘シーンを演出する力量には驚嘆する。某監督の『川中島』と比べてみれば、一目瞭然であろう。
ただ、今回、「おや?」と思ったのは、始って33分くらいのところ。負傷した武田信玄が峠のいただきにさしかかって籠のなかで死ぬ。その直後に武田軍が行進して画面の手前にやってくる。その赤い鎧の騎馬武者のなかの二人が「眼鏡」を掛けている! 画面に向って右上方から夕陽が射し、武者たちの兜や頬を橙黄色に染めている。しかしその二人の眼のまわりの白っぽい薄い光は何だ? 槍の穂先の反射光にしては奇妙だ。しかも二人並んだ右側の武者の鼻の付根には黒い筋状の影がある。これは眼鏡のブリッジではないかしら?
私は確信しているわけではない。眼鏡の反射を監督が見のがすわけがない、と思うからだ。思うけれども、「上手の手から水」かしら?とも思う。
なんとも不思議な光に気が付いてしまったが、どなたか説明できるかたはおりましょうか? DVDかVTRをお持ちの方は、ちょっとその部分を見てみてください。騎馬武者が「武田の軍勢は整然としているのだ」というようなことを言うその場面です。一番手前の二人です。
撮影時、監督はカメラと共に高い位置から指揮していて、兜の目廂の下に隠れた眼鏡に気がつかなかったか? ラッシュで気がついても、あれだけの人馬をそろえて撮り直しはできなかったか?・・・いろいろ推理してみる。
まあ、眼鏡の騎馬武者がいたって、作品そのものの価値が変わるわけでもなかろう。珠に瑕とは言えるかも知れないが、巨匠の御愛嬌ですませてもいい。
映画のなかにはたま~に、そういうことを発見する。走っているトラックに飛びついた。カメラが切り替わると、向って右に飛びついたはずが左に変わっていた、とか。着ている服が違っていることさえある。あるいは、口にくわえているタバコの長さが違っていることも。短くなっているのならまだしも、長くなっていてはマジシャンだ。
そんなわけで、いろいろ驚いた今夜の『影武者』だった。
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Last updated
Dec 21, 2008 02:23:06 AM
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