「アラブ、若者の怒りと絶望」中東アフリカ総局長・翁長忠雄氏筆・16日・「風 カイロから」欄
私:中東では米国のシリア爆撃でシリア問題が大きくなっていて、トランプ米大統領が昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と宣言したパレスチナ問題がかすんだ感じだ。 A氏:しかし、今年5月には米大使館を商業都市テルアビブからエルサレムに移転する計画だ。 パレスチナ自治区ガザ地区の人々は3月30日、地区とイスラエルとの境界付近で、パレスチナ難民の帰還を求める大規模デモを始めた。 イスラエルの占領に抗議しながら行進する平和的なデモだったが、参加者の中には石を投げたり、タイヤに火を付けたりした人もいた。 この「原始的な武器」にイスラエル軍は催涙ガスや実弾で返してきて、死者は15人、負傷者は1400人を超えた。 私:デモはイスラエル建国に伴ってパレスチナ人約70万人が難民になった「ナクバ」(大破局)70周年の5月15日まで、毎週金曜日に6週間続き、米大使館が移転されるのはその前日の同14日。 しかし、アラブ諸国やアラブの人々が、共に闘ってくれるかどうか、現実は厳しい。 2012年と14年、イスラエルがガザを大規模に攻撃し、2千人以上が死亡したが、アラブ諸国はイスラエルの暴力を止められなかった。 米政権の一方的な「首都宣言」にアラブ諸国は一斉に非難の声明を上げ、宣言の撤回を求める国連決議でアラブ諸国は賛成に回ったが、米国の外交官の追放や国交断絶といった強硬手段には踏み出せていない。 A氏:かって、パレスチナの占領をめぐりアラブ諸国はイスラエルと4次にわたる中東戦争で対決。 パレスチナ問題はアラブが団結できるテーマだった。 イスラム教徒にとってサウジアラビアのメッカ、メディナに次ぐ聖地エルサレムをイスラエルの首都とする米政権の決定は、アラブにとってのど元に刃物を突きつけられたに等しい。 しかし、アラブの反発は予想以上に弱い。 私:「アラブの春」の挫折に伴う混乱で、中東の相関図は、ほどきようもないほど複雑化していて、中東の覇権を争うサウジとイランは、イエメンで「代理戦争」を起こし、対イランで利害の一致するサウジとイスラエルは対立よりも協力を模索している。 シリア内戦は終わる気配がなく、リビアは今も政府が分裂している。 そして、各地で吹き荒れた過激派組織「イスラム国(IS)」の恐怖支配と殺戮。 各国は自国の安定と権益を確保するのに精いっぱいで、米国とイスラエルはそんなアラブの無力感を見透かしている。 翁長忠雄氏は、「アラブの若者の怒りと絶望がマグマのようにたまっている。国際社会がそれを放置したままでは、若者は過激な思想にしか希望を見いだせなくなる。トランプ氏が『テロとの戦い』の先頭に立つつもりなら、アラブの切実な訴えに真摯に向き合ってほしい」という。 今回の米国のシリアへのミサイル攻撃で、ロシアも中東問題に深くからんできて、中東問題はますます複雑化してきたね。