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テーマ:好きなクラシック(2283)
カテゴリ:お気に入りのクラシック音楽
ビゼーが37年という短い生涯の中で残した音楽は、オペラ「カルメン」を中心として、主に劇場音楽である(若くして書かれた交響曲も素晴らしい作品だが)。この「アルルの女」も、ドーデの劇に付けられた劇中音楽である。
「アルルの女」の話の筋は、音楽ほど有名ではない。物語はフランスの田園地帯にある小さな農村での恋にまつわる悲劇である。主人公はアルルの街で一人の女と知り合い、恋をするも、家族に反対される。結局幼なじみと婚約するが、「アルルの女」を忘れることができない主人公は結婚の前夜に家の窓から身を投げて命を絶ってしまうという話だ。ちなみに、「アルルの女」は劇中にまったく姿を見せない。 ビゼーはこの劇に27曲の音楽を付けたが、彼はこの中から特に気に入ったものを演奏会用の組曲に編曲した。これが第1組曲である(第2組曲は彼の死後、友人によって編曲されている)。 ------------------------- 第1曲:前奏曲 この曲は大きく分けて、決然とした行進曲風と、ゆったりとしたアンダンテという、2つの部分に分かれる。冒頭からたびたび登場する行進曲風の主題は、プロヴァンス地方の民謡「三人の王の行進」であると言われている。 1回目の主題は太い音質のユニゾンで演奏される。2回目はクラリネットが滑らかに演奏するのを他の木管楽器で包み、3回目は弦楽器の半音階的な進行が小太鼓のリズムと相まってテンションを上げていく中を、木管楽器のユニゾンによって演奏される。3回目の主題が終わると、今度はアンダンティーノにテンポが落ちてチェロがハ長調に変わった主題を演奏する。この背景にあるファゴットの3連符がいい味を出している。この小さな部分が終わるとハ短調に戻り、4回目の主題。この時には主題が高音にも出てくるので、音が広がる感じになる。前半部分の最後は静かに終わる。 後半部分は静かな雰囲気の中から、変イ長調を示す伴奏に乗せてサクソフォーンが旋律を奏でる。長調でありながら、何とも切ない旋律で短調の雰囲気、聴いているとゾクゾクしてしまう。ビゼーはこういった表現が素晴らしいなと思う。スコアにはクラリネットをサクソフォーンに代用できるとされているが、やっぱりこの旋律はサクソフォーンだと思う。その後、ハープの分散和音が効果的な場所を経て、単純ながらもテンションの高い表現、温かい風がながれているかのようだ。最後はなぜかト長調の和音で静かに終わる。これまた不思議な感じがする。 ------------------------- 第2曲:メヌエット メヌエットながら、かなり快活でテンポも少し速めであるような感じ。冒頭は弦楽器によるフォルティシモ、対する木管楽器は柔らかい音で見事なコントラストを描き出している。その後すぐに第3音を抜いた短いファンファーレ風の音を経て、変イ長調の少し夢を見ているような優しい世界が広がってくる。ここでも旋律にサクソフォーンが用いられているのと、ヴァイオリンやフルートのふわふわ飛んでいるような音型が効果的。途中、木管楽器によるハ短調の軽い旋律が挟まれていて、陰の部分を演出している。 最後は、冒頭部分を繰り返すが、今度はフォルティシモではなく、何とピアノ4つという弱音、ここまでの指定は音量というよりは、音の粒の立て方といったものでコントロールするしかないところ、とても気を遣う部分である。聴き手の耳をどんどん音に向けていくような終わり方である。 ------------------------- 第3曲:アダージェット 34小節しかない短い曲。弾くだけなら簡単なのだが、かえってこういう曲は本当に難しい。スコアを遠くから眺めていると、なだらかな丘の風景を見ているようだ。劇の中では数十年ぶりに会った人が昔をしみじみ語り合う場面であり、落ち着いた雰囲気がとてもいい感じだ。ヘ長調は、こういった雰囲気にやはりよく似合うなと思う(ゆっくりとしたヘ長調といえば、マーラーの交響曲第5番第4楽章のアダージェットもそうだ)。小節線をまたぐ直前に5連符があるというのも、なかなかいい味を出していると思うし、また音の強さの指定にもいろいろと工夫がある。スコアを眺めていると音楽の奥深さを感じ取ることができる。 ------------------------- 第4曲:カリヨン(鐘) 初めて聴いたときに最も強いインパクトを感じた曲。「キン・コン・カン」って、そのままやがなと思った。それと、とても不思議な音色だと思った。ホルンはわかるがあとは何?と思って、後でスコアを買って開いてみると、ハープ、ヴァイオリンのピチカート、そしてなんとヴィオラだけは鐘の音が細かく2つに分かれていた(つまり、「キキン・ココン・カカン」という風に鳴っている)。作曲家の頭脳、恐るべし...。 この曲は婚礼の場面で流される曲。ホ長調でとてもあかるい音楽。旋律の跳躍の仕方が珍しいので、一度で覚えてしまえる。途中、経過的な場所の和音進行がとても面白い。ひとしきり盛り上がると、曲はアンダンティーノとなり、嬰ハ短調へ転調、寂しげな音楽へと変わる。しかしながら、ここでも経過的な部分で一瞬長調の和音が出てくる。その輝きがまた切なさを感じてしまう。この部分の最後の方は、鐘の音が拡大されてさりげなく裏で鳴っている。そして、また冒頭の旋律が帰ってきて、最後は最高に盛り上がって終了となる。 ------------------------- 実は、この第1組曲はまだ演奏したことがない。どうしても盛り上がり具合などを考えると第2組曲の方が演奏される頻度は高いような気がするのだが、第1組曲もとてもいい音楽だと思う(むしろ、ビゼー本人の音楽をそのまま味わえるのはこっちである)。ビゼーの音楽の色というのは、他の作曲家ではなかなか味わえないもので、ときどきとても聴きたくなるときがある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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