カテゴリ:コードギアス
ユーフェミアはルルーシュから届いた手紙を読んで少々面食らった。
あの過保護なルルーシュの事だから絶対に戦場に出てくるなとでも書いてあるのだろうと思い、封を切って手紙を読んでみればそこに綴られていたのは協力を仰ぐ文章であった。 ルルーシュがユーフェミアに望んだのは東部の貴族達の説得とそしてもう一つ、戦略上重要なある人物の捜索。 勿論これはルルーシュなりの気遣いである。 こうでもしなければユーフェミアはオデュッセウス達を助けたいと言って家の者を困らせたであろうし、無謀な真似をされても困る。 そして何より、彼女が自分が何も出来ない事に対して罪悪感を抱く事を避けるため、ルルーシュはあえて比較的安全な役目を与える事でユーフェミアの暴走を避けようとしたのだ。 その意を受けてユーフェミアとリ家の騎士団はゲルマニア東部に向かう事となった。 彼女は生まれて初めて受ける扱いにただ怯える事以外に何も出来なかった。 手足を縮こまらせ、ぎゅっと両腕で足を抱く。 冷たい石畳、暗い牢の中は恐怖を一層色濃いものへと変えていった。 ここがどこなのかは分からない。 だが首府からは随分離れた場所のような気もした。 窓も無い馬車に押し込められて連れて来られたのは古びた塔だった。 突然に養父と住んでいた家に押し寄せてきた兵士達、自分を人質に取られ抵抗する事が出来なかった養父。 自分がいなければという自己嫌悪に何度浸った事だろうか。 自分をここに押し込めた兵士は時折食事を持って来ては自慢げに外の世界の事を話していく。 それによれば、養父は北の貴族達を率いる皇子達と戦わされるのだという。 彼女は泣いた。 養父が奴隷のように戦わされる事が悔しかった。 だが非力な身に何か出来るわけでもない。 震える体を抱きしめる。 「おい、食事だ」 粗野な男の声が牢に響き渡った。 ビクリと体を震わせる。 現れた男の姿を怯えた表情で恐る恐る見上げる そんな仕草一つ一つが男の嗜虐心を煽り、男の顔に浮かんだ色に彼女は一層怯えた。 唯一牢にいる事を感謝する瞬間である。 鉄格子で男との間が区切られていなければ今頃きっと狂っていただろう。 そんな時だった。 不意に階下で争うような声と破壊音が響き渡った。 冷たい床に触れれば微かに震動が伝わってくる。 牢の前に立っていた男も懐から杖を抜いて身を翻し階下へと降りていった。 しばし続く物音、やがて一つの悲鳴と共に階下は静かになり、幾つかの足音が階段を上ってくる事に彼女は気づいた。 「本当にここか?警備は厳重だったが、人がいそうな気配は・・・」 「おい、誰かいるぞ」 若い男の声、現れたのは若い二人の騎士だった。 身だしなみもきちんと整った一目で良家の子息であると分かる出で立ち。 しかしそれでさえも彼女を恐怖心を煽るだけ。 アンロックの魔法で鍵を開け、青年が牢の中に足を一歩入れた瞬間、彼女の悲鳴が響き渡った。 「アルフレッド、何してるんだよ!」 「い、いや、何もしていない!」 バートの言葉に必死になってアルフレッドは頭を振った。 慌てて牢の外へと飛び出る。 「落ち着いてくれ、私達は君を助けに来たんだ!」 「いやぁあああッ!!来ないで!!」 理性的な判断はできない。 困り果てた彼等の後ろから、悲鳴を聞いて駆けつけてきたアンドレアス・ダールトンが現れる。 「お前達、何をしている」 「ち、父上、誤解です!私達は何も!」 「この子が異常に興奮してしまって・・・」 「む・・・」 すすり泣く音が静かに牢に響き渡る。 困り果てた男達の元へ一つの柔らかな声が届く。 「何をしているのですか?」 「ユーフェミア様!何故このような所へ!?」 「ファランクス卿に連れて来て頂きました」 自分の護衛をしている女性騎士の名を挙げて、ユーフェミアは彼等の間をかき分けて前に出た。 牢の中の少女の姿を目にしてユーフェミアは進んで牢の中へと入っていく。 騎士達の止める声にも耳をかさない。 震える少女の前に屈むとそっと顔を覗き込んだ。 薄桃色のドレスが汚れる事も厭わずに、ユーフェミアはただ優しい笑みを浮かべる。 泣いていた少女は恐怖を忘れてその笑みに見惚れた。 「大丈夫、安心して。あなたは私が守って見せるから」 「・・は・・はい・・・」 返事を聞いて背後の者達もホッと胸を撫で下ろした。 ユーフェミアは彼女の濃緑色の髪に付いた汚れを払う。 「あなたはお名前はなんというの?」 「あ・・・、その、私の名前はニーナ・ヴァルトシュタインです」 「まさかヴァルトシュタイン卿の!?」 「養父を知っているんですか!?」 思わず声を上げたダールトンにニーナが尋ねる。 「勿論です。ですが、何故あなたがこんな所に?」 その問いにニーナはここに連れて来られた経緯、牢番から聞いた事を交えて話した。 途端に皆の表情が変わる。 「ヴァルトシュタイン卿が、オデュッセウスお兄様と・・・」 「それはまずいですな。ヴァルトシュタイン卿が戦場に出るとなればどれほどの犠牲が出る事になるか分かりませんぞ。時間的にもそろそろ主力軍同士がぶつかる時間です」 「お願いします、ユーフェミア様!私をお養父様の元に連れて行って下さい!」 それを聞いてユーフェミアはすぐに頷いて見せた。 「分かりました。あなたをヴァルトシュタイン卿の元へ連れて行きましょう。ファランクス卿、彼女と私をオデュッセウスお兄様達の元へ連れてって下さい」 「お待ち下さい、ユーフェミア様!今何と!?」 「止めても無駄です!私も彼女と共に行きます!」 「しかしあなたにはまだ東部の貴族の説得が!」 「それはおじい様達に任せれば大丈夫です。これは私にしかできない事なんです!」 「どこがですかッ!」 ユーフェミアの戦場行きを止めようとするファランクス卿とユーフェミアの間で火花が散る。 ニーナやダールトン達は割って入る事も出来ずにただ黙って見ている事しか出来なかった。 そしてやはりと言うべきか、折れたのはファランクス卿であった。 「仕方ありませんね。あなたも御兄弟に似て強情でいらっしゃる・・・」 「ベアトリス!?」 「仕方ありませんよ、ダールトン卿。しかしユーフェミア様、戦場では私の指示に従って下さい。その一点だけは譲れません。お約束して頂けますね?」 「分かりました。あなたに従います」 神妙に、しかし嬉しそうに頷いたユーフェミアからダールトンに振り返り、ベアトリスはユーフェミアの代わりに指示を出す。 「私はユーフェミア様とニーナ嬢をオデュッセウス殿下の元へお連れします。ダールトン卿とグラストンナイツの方々はこのまま捜索活動を続行して頂けますか?」 「うむ・・・、仕方ない、そうするとしよう。だがベアトリス、戦場では何があるか分からん。くれぐれも注意を怠らぬようにな」 「勿論です」 ベアトリスはニーナを支えるユーフェミアの肩をそっと押して階下へと誘っていく。 残されたダールトンらは広げた地図の上にバツ印を書き込んでいった。 彼等が捜している人物はここに監禁されてはいなかったのだ。 「ここでもないとなれば、あとは候補は十程ですね」 「明日には回り切れるだろうな」 しかし、とダールトンは思う。 ビスマルク・ヴァルトシュタインの養女が捕えられている所を見つけるとはついていた。 ナイトオブワンの実力は伊達ではない。 かつてトリステインの伝説、烈風のカリンに唯一手傷を負わせた男だ。 いかにルルーシュが優れた軍才をもって戦略を立てようと、彼の戦術で軍が壊滅する恐れもある。 それを防ぐ事が出来る可能性を自分達は掴んだのだ。 ダールトンは天運というものがオデュッセウス、そしてルルーシュに向かって流れているのを感じた。 その頃、ガリアに留学中のクロヴィスも祖国での内乱の情報を受け取り、戦場へと向かおうとしていた。 「クロヴィス殿下、どうかお止め下さい。危険ですぞ!」 「何を馬鹿な事を言っている!そんな事は当然だ」 自分の行動を留めようとするバトレーにクロヴィスは怒りを持って答えた。 「オデュッセウス兄上が、ルルーシュが、ロロが、ユフィでさえ戦っているはずだ。それにもかかわらず、私には外国から見ていろと言うのか!」 「殿下の御身を思えばこそ、今戻られては危険です!」 「黙れ!」 クロヴィスが声を荒げる。 彼等が宿泊所としているゲルマニアの大使館、そこの職員達が皆一斉に首を引っ込める。 「私は政治の才がなかった。魔法もあまり得意ではない。皇族としては失格だろう。芸術の道に進み皇族としての役目をルルーシュ達年下の者に押し付けてしまった愚か者だ。だがな!私は彼等が命をかけて戦っている時に、安全な所で指をくわえてみているだけの様な卑怯者にだけはなりなくない!」 肩で息を整えて、側近達を睨みつける。 彼等はクロヴィスの言葉にただ聞き入っていた。 「私にも何かできるはずだ。すぐにゲルマニアに戻る。出国の準備をしろ!」 「Yes, your highness!」 バトレー以外の者が大使館中に散っていく。 クロヴィスは疲れた様子で椅子に座った。 両手を組んで大きく息を吐く。 「怒鳴って悪かった、バトレー」 「い、いえ!私の思慮の浅い発言、お許し下さい」 「いや、いいさ。ところで私には今後の見通しというものがないのだ。済まないが一緒に考えてくれないか?」 「今後、ですか・・・、ではひとまずトリステインへ行かれてはどうですかな?」 「トリステイン?何故だい?」 「ガリアからゲルマニアへ向かえば反皇子派の貴族の領地に出てしまいます。ゆえにトリステイン経由でオデュッセウス殿下の領地へ向かうのがよろしいかと」 「なるほど、そうするか・・・」 そうして彼等はガリアからトリステインへと向かうのだが、この行動が今後ゲルマニアの戦況に大きく関わってくる事になる。 ※次からちゃんと戦争するよ! はたしてミスターやられフラグなカラレス将軍の運命は!w ちなみにニーナはアインシュタイン家の令嬢だったけど、両親が亡くなったのでその友人だ ったビスマルクに引き取られて現在はヴァルトシュタインの姓になっています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.07 21:09:50
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