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カテゴリ:冬瓜堂
(承前)
【宮田】 メディアはなにができるかということで、自分がプロデューサーをしている「ハートをつなごう」について話す。29分枠の番組で、だいたい毎月末に放送している。性的マイノリティのシリーズは2006年に始まった。 この番組はNHKの一般的なドキュメンタリーとは違う作り方をしている。一度放送して終わりにしない。視聴者からメールをもらってまた同じテーマで放送する双方向性。当事者からメールが来たら、直に話を聞かせてもらうために出向くこともある。 性的マイノリティのシリーズは反響が大きく、下は小2から上は70代まで、2~3,000件のメールをもらった。LGBTを取り上げたら「同性愛も取り上げてほしい」「もっと多用なマイノリティを取り上げてほしい」というメールがきて、そのうち関連シリーズだけで20数本になった。 若い世代を取り上げたら「次はもっと上の世代を」「パートナーシップをやって」など。親御さんから「親子の関係を」ときたり、取り上げるべきネタは尽きない。 小中学生の視聴者からは「家でテレビが見られないのでもうちょっとなんとかならないか」とメールが来て、ウェブサイト「虹色」を開設した。ケータイ版も作った。シンポジウムや講演に呼ばれたときに配れる小冊子も、夏ごろには出すつもり。 異性愛の人からは「この番組で性的マイノリティのことを知りました」というメールが来る。 放送は29分だが、収録時間は3時間とかずっと長く、たいてい夜遅くまで続く。取材者はタフな人が多くて、収録の後も夜通し飲みながら語り合ったりしている。取材者と出演者が分かれているのではなく、一緒になって作っている番組という感じだ。 今後もシリーズの放送がある。 【野宮】 Trans-Net Japan(トランスジェンダーの自助支援)に携わっていた。事情があって現在団体は休止しており、野宮個人で活動を継続している。 ふだんはセクシャルマイノリティの基礎知識について講演することが多い。きょうは「ピアサポート」(当事者による自助支援)と大学での講義について話す。 Trans-Net Japanは、1996年埼玉医科大倫理委員会答申(「性転換治療始めるよ」)をきっかけに発足。目的は、 正確な一次情報を広めること 医療従事者と当事者の対等な意見交換 立場の違う当事者が会する 世間的に性的マイノリティに対する誤解がある。例えば、 性同一性障害と同性愛の混同(「同性が好きで性転換したいのが性同一性障害、性転換まではしなくていいと思ってるのが同性愛」みたいな。身体は男性、精神は女性だが女性が好き、というような人の居場所がなかった) ジェンダーイメージとの混同(FTMはマッチョな人格にちがいない) 当事者自身によるエンパワーメントが重要。 大学での講義。半期13回で「セクシャルマイノリティ」を扱う。 講義は多分野にわたる。和光大学は社会学系の学生が多いので生物学的な話をすると寝ちゃう……。 当事者の話を聞く。 学生は「ゲイだから女性っぽいだろうと思ったらフツーの男性でびっくり」なんて言う。 当事者の姿を知ること。 具体的・客観的な知識を得ること。 セクシャルマイノリティの問題から大きく社会に視野を広げていくこと。 【砂川】 私もセクシャルマイノリティについて講義することがあるが、どんな学校にいっても誤解の率が同じくらいなのは興味深いことだ。 【東田】 保険会社に「同性パートナーを受取人にできる商品」を設けてもらうなど、LGBTが暮らしやすい社会をつくるためのコンサルティングをしている。特にゲイ男性に重点を置いている。 ゲイ男性は(法制度上の)結婚をせず、子供も作れないので可処分所得高くなる傾向。ゲイ男性同士のカップルはいわば高収入DINCS。企業にとっては狙い目だ。このようなゲイマーケットは、海外からの旅行者も入れれば大きな市場といえる。 ゲイマーケットの特徴として、ユーザーロイヤリティが高い。「LGBTをサポートする企業があれば、自分たちもその企業を応援したい、多少商品が高くてもいい」という傾向。 世界の経済状況が悪化し、日本は少子高齢化している。ビジネスモデルの再構築が迫られる。その中でLGBTマーケット、ゲイマーケットが注目される。日経ビジネスでも特集記事が組まれたことがある。 単にLGBT向けの商品を作ればいいというわけではなく、まず「ダイバーシティ」の取り組みを進めることが大切だ。アメリカには「ヒューマンライツキャンペーン」があり、どの企業がなにをやっているか調査して、業種別のランキングを公表している。 例として航空会社の話をする。アメリカン航空がずっとトップにある。同社は20年以上にわたって「ダイバーシティ」に取り組んできた。 具体的には、性的嗜好による差別禁止の規則があり、同性パートナーの福利厚生を充実している。これに15年間取り組んだ。 その後、顧客に見える形でLGBT向けのサービスを始めた。まず社内からやって、顧客に広げていく。 対照的な例として、ヨーロッパのある航空会社がある。ここはLGBT向けマーケティングをやっていた。しかし、中東のレズビアン亡命者が強制送還されるときに、その航空会社が利用された。するとLGBTコミュニティが猛反発した。「レズビアン亡命者の強制送還に協力するとは何事だ」というわけだ。この会社は、LGBTを(ありのままの人間としてではなく)「客」としてしか見ていなかったのだ。 日本企業の「ダイバーシティ」は形ばかりのものも多い。育児のための制度はあるものの、実際には上司や同僚からの圧力があって使えなかったりする。アメリカン航空は実際に使いやすい制度を用意した。 なぜ企業は「ダイバーシティ」に取り組むのだろうか? 日本はエコでもそうだが、流行とかなんとなくでやるところが多い。アメリカの場合は事情が違う。少しでもいい人材を採りたい、採ろうと思ったら、マイノリティでも高齢者でも障害者でもいい人材が働きやすい環境を作るのが当然。「女性だから」「高齢者だから」「障害者だから」働きやすくするのではなく、「誰でも」働きやすくする取り組みだ。 ソフトバンクは日本では珍しく「ダイバーシティ」に取り組んでいる。もっと広げるためには、消費者がソーシャルメディアなどを活用して企業に呼びかけるのも有効だ。 【砂川】 一青窈からのメッセージを読みあげる。 ~ディスカッション~ 【砂川】 壁を打ち破るために必要なこと、とは。 【福島】 セクシャルマイノリティについて、これまで政府のなかであまり議論がされてこなかった。性同一性障害については法律を作ったので、まだ立法府での議論があったが、同性愛はまったくの手付かずだった。国会議員のなかにもまだ広がっていない。 大臣として、男女共同参画、子ども・若者支援、自殺対策、さまざまなところにセクシャルマイノリティを支援する政策を織り込んでいきたい。まずはほんとうに基礎的なところから、ものすごくざっくりいうと「生きていてもいいんだよ」というメッセージを届けたい。今後も人権問題として取り組んでいく。 【砂川】 当事者にとってはなにが重要な力になったのか。 【野宮】 セクシャルマイノリティが自分たちをエンパワーするためには、様々なところに働きかける必要がある。例えば政治家に、医師に、そして当事者同士でも。だから人間関係の構築が大事だ。というとすごく大まかな抽象論のようだが、セクシャルマイノリティは(周囲の無理解などで)それが難しい面もある。だからあえて強調したい。 【東田】 企業への働きかけを。同性カップルに家族割を適用する(ソフトバンク)のは、小さなようだけど社会にとってはけっこう大きいこと。 【会場からの質問】 LGBTでテレビに出演する人は、身体的に男性やMTFの人が多い。なぜ身体的に女性の人やFTMの人は少ないのだろう。 【砂川】 テレビ側になにか躊躇する理由があるのか?>宮田 【宮田】 テレビ側が躊躇する理由はないのでは。「女性」で声をあげてくる人が絶対数として少ないというのもある。 【野宮】 ゲイの方が露出度が高いことについて、私もこれが理由だとは言うことはできないが……。病院の受診者はFTMが多いし、金八先生で取り上げられたのもFTM。 テレビタレントでMTFが多いとすれば、職業的な要因が大きいのではないか。FTMは外見としてどこにいっても受け入れられやすいが、MTFだとショービジネスしか行く場所がないということもあるのではないか。 【福島】 レズビアンの露出が少ないのは女性差別のせいもあるのでは。女性の方が比較的収入が少なくて、レズビアンカップルは貧乏なことが多いし……。 男性側がレズビアンに対して恐怖感を抱いているというのもある。レズビアンというのは男性がいなくても生きていける。女性だけでやっていける存在に対する恐怖というのがあるのではないか。(会場から拍手) 【砂川】 会場から拍手も出て時間的にも切りがいいのでこれで終わります。 まとめ。 【司会】 ホットラインに届いた声を福島大臣にお渡しする。今後の施策に活かして。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.05.23 20:39:43
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