「杉の花粉」の独断と偏見に満ちた愛読書紹介コーナー

どん底・・・のすたるじー？

　昨日の夕食は「豆ごはん」。
　ネットで購入した「レンジで炊ける炊飯器」を使う。
　陶器製の「炊飯器」で「１合の米」を磨ぎ、
　冷凍米国産「グリーンピース」を放り込む。
　・・・ド・ド・ド・ド・ドッ・・・アッ！
　「規定水量」に頭を出している。
　・・・
　すこおし多目の「水」にした。

　電子レンジで１８分。
　さらに待つこと１８分。
　ドンブリに入れ替え「いただきまっす！」

　・・・硬い。

　「硬い」んじゃなくって・・・
　・・・「生」に近い。

　久しぶりに、
　ジックリ時間を掛けて喰った「歯応え」のある夕食だった。
　・・・
　ＣＡＴＶを観る。

　ＡＴＧ（日本アート・シアター・ギルド）なんて配給会社があった。
　映画産業の最盛期、興業権を独占した「東映」や「東宝」なんて大手配給会社は、「低脳な大衆受けする映画」しか製作しなかった。
　そこから弾き出された監督の救済システムがＡＴＧ創設である。
　だから・・・
　ＡＴＧ配給の映画なんて、「素人然とした作品」や「全く意味不明の作品」がゴマンと有る。

　今から３０年も昔、私が未だ中学生だった頃。
　ＴＶのゴールデンタイムは、大衆受けする「ハリウッド映画」や人気のあった「日本映画」しか流さない。
　それが・・・
　決まって夏休みの深夜枠、午前１時前後から放映してたのがＡＴＧ作品。
　サッパリ意味が判らない！
　・・・貧乏臭いし。
　なんて思いながらも何処か惹かれる処があった。
　・・・チョッとＨだし。

　クドイ程書いている「新宿泥棒日記」なんて正しくＡＴＧ配給である。
　・・・あんな映画なんて「家族揃って」誰が観るってんだ！

　そうして・・・
　昨日ＣＡＴＶで見た「任侠外伝　玄界灘」（１９７６年ＡＴＧ配給）
　唐十郎監督作品で、小松方正、安藤昇、宍戸錠と一緒に李礼仙、根津甚八、小林 薫など紅テント「状況劇場」のメンバーなんかが出演している。

　朝鮮戦争末期、釜山（プサン）の寒村。
　粗末な一軒家へ、米軍に従事した日本人二人組がやってくる。
　戦死した兵士の「兵士タグ」を家族に届ける仕事なのだが、
　・・・一人は強姦、一人は死姦してしまう。
　しかし、殺された親父（小松方正）と死姦された娘（李礼仙）は蘇生し、娘は「鬼子（日本人が産ませた子の蔑称）」を産んで自殺する。
　２０年後、その親父（小松方正）と「鬼子」（李礼仙：二役）が、大韓民国からの密入国船に乗って日本国玄界灘に不法入国する。
　その「手引き」をしたのが、先の日本人二人組。
　二人はソレゾレ極道になっていた・・・

　「勧善懲悪（かんぜんちょうあく）」と云うか、
　「そして誰も居なくなった」と云うか。
　・・・主役級に「当時は未だ現役だったらしい」安藤昇がいるし、
　・・・日本で初めて「Ｒ指定」された映画らしいし、
　・・・玄界灘に向かって「実弾を撃った」って噂もあるし。
　まあ。ＡＴＧに有り勝ちな「訳の判らないお話」ではある。

　「Ｒ指定」たって「ハダカ」は全く、「猥褻な言葉」すら出てこない。
　でも・・・
　「映倫」じゃなくったって「Ｒ指定」にするだろう！
　・・・と思う。

　冒頭は・・・
　死体から「小腸」を引っ張り出してる。

　警察署の昔の「便器の無い小便用トイレ」。
　脈々と小便が流れてる「溝」に寝っ転び、
　色付いた小便に塗（まみ）れ、
　警官と取っ組み合いを始める根津甚八。

　最後は・・・
　ヘドロに満ちた河口に浮かぶ李礼仙の死体を、
　ズブズブと腰まで浸かりながら抱き上げる。
　そして・・・
　李礼仙の顔にヘドロ塗れの手を擦（なす）り付け、
　ヘドロに顔を突っ込んでは泣き喚く根津甚八。

　食事中なら・・・「箸」が止まる。

　こんなモン作って如何しようてんだ？
　これを評価する奴の顔が見てみたい。
　・・・まあ。「歯応え」充分な作品ではあるが。

　でも・・・
　強烈な「臭い」を放った昔の便所。
　今じゃ公衆便所も綺麗になった。
　悪臭漂うヘドロの海さえ、
　今じゃ砂浜に変わっているのだろう。

　今の日本は何処に行っても「臭い」がしない。
　ふと、そう気が付いた。

　「人いきれ」が充満して息苦しささえ感じた人混み。
　便所や生ゴミの悪臭漂う街並み。
　田舎の「肥溜め」なんて今でも在るのだろうか。

　都市から田舎から「臭い」がしなくなった。
　「体臭」しか気にしない人ばかりになって、
　人からも「臭い」が消えた。

　「昔の記憶」なんて
　何処か「におい」に繋がっているはずなのに。

　便所やヘドロの「悪臭」、人の「血」の生臭さ。
　遠い昔、確かに嗅（か）いだことのある「臭い」なのだ。
　だから・・・
　「映像」なのに、酷い「悪臭」を感じてしまう。
　
　そして・・・
　好きだった人、好きだった場所、下宿時代の町並み、キレイな清流と緑に覆われた故郷。
　どれも、爽やかな「匂い」に包まれている。
　その「匂い」に誘われて鮮やかに記憶が蘇る。

　あの人と。
　初めて会ったとき何を話した？
　そのとき何着てた？

　あの時は。
　土手に寝っ転がって入道雲をボーっと見てた？
　お好み焼きの匂いにお腹が鳴った？
　想い出の「体臭」は甘く、草叢（くさむら）や雑踏の「臭い」すら懐かしい。

　人は今だけを生きている訳じゃない。
　過去からズッと生きているんだ。

　「無味無臭な世界」は、そんな・・・
　「当たり前のこと」すら見失わせてしまう。

　「病的な清潔さ」が全ての「におい」を消していく。
　それは・・・
　「想い出（ノスタルジー）」を消す仕業なんじゃないのか？