これは残酷? 最終告知
久しぶりの更新です。今日は、ちょっと深刻な「告知」 お話です。4ヶ月前のこと。。。ある30代の男性患者さんから電話がありました。昨年の12月から、突然体調を崩し、ずっと地元の病院に入院していました。 「もう、何時どうなるかわからない状態だから、 今のうちに、ご家族に伝えたい思いを伝えておきなさい」こう、地元の主治医に言われた彼は 見放されてしまったようですそう、電話口で弱弱しく呟きました。彼とは、ここ数年来、懇意にしていました。定期的にメールが届きましたし、ご家族の写真を何度も送ってくれました。2011年に虫垂癌の手術。その後、腹膜播種で再発して米村先生の元へ。米村先生の手術を受けたのは、2012年秋でした。彼の場合は、単なる虫垂癌ではなく、印環細胞癌で、癌の中でも性質が悪い癌のタイプです。彼が、地元の病院で受けてきた処置や治療はよく知っています。定期的に米村先生の外来に出向いていましたが、術後の抗癌剤治療は、米村先生のメニューを取り入れてくれていました。顕著な再発の症状が出たときも、的確な処置を施してくれて、それ故に彼は、再発してからも普通に仕事をこなしていました。全国の病院事情を耳にする私からすれば、ベストと言える病院環境に恵まれていました。良くして貰っているなぁ~って思ったものです。ここまでしてくれる病院(医師)は、そうそういませんから。そんな素晴らしい医療環境にいても、当の本人は、「きょとん」 って感じでしたけどね。私、声を大にして、その恵まれた環境を伝えたんですよ。今頃、寝たきりになっていても、不思議じゃないんですよってね。仕事まで出来ているなんて、そちらの先生に大感謝すべきですよってね。ステージ4の癌患者に、医療は優しくなんかありません。これ、現実です。それでも、その「ありがたみ」は伝わらない。恵まれている人ほど、それに気付かず当たり前だと思っているものです。地元の医師との関係が良好だってことなんでしょうけどね。そんなある日、突然、癌は逆襲してきました。酷い腸閉塞に、感染症を併発。ここまで来たら、どんな医師でも諦めるところですが、それでも、この医師は一か八かの提案をしてくれました。バイパス手術をやってみよう。ですが、術後は敗血症にDIC、傷口が何時まで経っても塞がらないという状況に。それで万策尽きたこの医師が、 「もう、何時どうなるかわからない状態だから、 今のうちに、ご家族に伝えたい思いを伝えておきなさい」と言ったのです。これを見放されたと受け取った彼から電話があったのでした。彼は子煩悩な人です。自分なりに、父親像を持っていたようです。そして、自分が背負っている「責任」も自覚していました。再発する前、元気な頃、彼は奥さんに言いました。もし、再発するようなことがあれば、もう仕事はできなくなるだろう。今だって、医療費は親に迷惑をかけている状況だ。仕事が出来なくなれば、生活費が稼げなくなるその時は、悪いが実家に帰ってくれと。奥さんとお子さんへの責任が果たせない、それに加え、医療費が増える。奥さん、子供に苦労はかけられない・・・そう思ったようです。奥さんには、こっぴどく怒られたようで、大喧嘩になったと笑い話に教えてくれました。この彼は、こんな人です。だから、地元の医師はこんな最終告知をしたのではないかと思いました。医師として言うんじゃなく、大人の先輩として、一人の一人前の男と見込んで、親心で言ったんじゃないかと。彼には、幼い子供が2人いて、父親としての義務がありますから。余命告知を受けると、憤る人もいます。だけど、世の中には社会的な立場から、大きな責任を背負っている人もいます。こういった責任ある人は、残酷であっても知らなければなりません。社会人となれば、誰でも大なり小なり「義務」と「責任」を背負います。命の期限を知らねばならないこともある。。。だから私は言いました。見放したのではないと思うと。お子さん達のことを考えて、父親として考えて欲しかったのではないかと。お子さん達にとっては、たった一人の父親です。お子さん達の成長を見守ることができないのなら、せめて、父親としての思いを伝えておくべきではないかとそう、その医師は思ったのではないかと。私自身も、同じ思いでした。彼には、子供達の永遠のヒーローでいて欲しいと思ったんです。彼に、この思いが伝わったのかどうかはわかりません。連絡が途絶えて、4ヶ月が経とうとしています。