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カテゴリ:宮部みゆき作品
今夜(3月12日)の「ステップファザー・ステップ」第10話のタイトルは「消えたダイヤと家族失踪の謎」でした。
柳瀬豪造(伊東四朗)の事務所に、名前が佐藤でIT企業の社長をしているという男(柏原収史)が訪ねて来ます。この男は、切れ端に置時計が写っている写真を示し、時計を探してくれたら報酬として二百万円を渡すと言うので、「俺」(上川隆也)は調査を開始します。そのことを知った双子の兄弟(渋谷龍生、樹生)もその調査の助手をしたいと言い出します。親が残した生活費が少なくなって来たため、自分たちで生活費が稼ぎたかったのです。 「俺」たちの調査の結果、置時計の捜査を依頼した男が名乗った「佐藤」は偽名で、正体は3年前にダイヤモンドを盗んで逃亡中の有村洋一ということが判明します。では、なぜ有村は置時計を探しているのでしょうか。「俺」は、その置時計に盗んだダイヤモンドが隠されているのではないかと最初は推測しますが、半分に破れた右半分に置時計が写っているこの写真の中に撮影日時が「09 11 15」と記されていることから、この写真の左半分には11月15日の成人式の日に撮られた家族の姿が写っているのではないかと推理し、新たに有村の家族について調査を開始します。その調査の結果、この有村の妻は夫の強盗事件で心労が重なってすでに亡くなっているが、一人残され施設に入っていた娘の美月(石井萌々果)は「花水木」という喫茶店を営む夫婦の養女となっていること、そしてその喫茶店に問題の置時計も置いてあること等が判明します。 そんな事実を知った「俺」は、有村を柳瀬の法律事務所に呼び出し、探していたのは置時計ではなく家族なんだろうと彼の真意をただし、また有村の妻は死亡しているが娘は喫茶店の主人夫婦の養女となっていることを伝えます。有村は「俺」に「娘に会わせてくれ」と懇願しますが、「俺」は有村に「あんたは家族を捨てたんだ! 勝手なことをぬかすな!!」と言って彼の願いを断固断ります。 しかし、そのことを双子の兄弟に話したとき、彼らは有村の娘は「たった一人しかいないお父さんだから、きっと会いたいと思っている」だろうと言い、有村に合わせてやるべきだと主張します。それで「俺」は有村に娘が「花水木」という喫茶店に居ることを教えますが、絶対に自分が父親だとは言うなと厳命します。 有村は「花水木」に客として訪れますが、そのとき喫茶店で手伝いをしていた娘の美月は、彼に「お一人ですか」、「お好きな席にどうぞ」「ご注文は?」とあくまでも店のウェイトレスとしてよそよそしく接し、有村の「コーヒー」との言葉に「かしこまりました」と返事するだけでした。たまりかねた有村は注文したコーヒーも飲まずに独り淋しく店を出て行きます。 それを見ていた双子の兄弟が美月に「このままでいいの」「ずっと探していたんだよ」「もう会えないかもしれないよ」と言って、彼女の思いを父親に正直に伝えるように促します。じっと心の思いをこらえていた美月は店を飛び出し、有村の背中に「お父さん!!」と声を掛け、振り向いた彼に向かって「お父さんの馬鹿!!」と叫び、そして「お父さんが泥棒などするから、お母さんは死んでしまったのよ。お母さんのことをほおっておくから、お母さんは死んでしまったのよ。独りぼっちで淋しかった」とこれまで心の奥底に仕舞いこんでいた思いを父親にぶつけ、有村も「美月にずっと会いたがったのだ」と言って親子はひしと抱き合います。 この場面、有村の娘の美月を演じた石井萌々果の演技が素晴らしく、このドラマではこれまでほとんど涙を流したこともなかった私ですがジワーッと涙が滲み出て来ました。 この子役の石井萌々果の素晴らしい演技に感心しながら、つい宗野家の双子の兄弟を比較してしまいました。前回もこの双子の兄弟は、礼子先生に彼女の子どもの「コウタ」くんからの嘘の手紙を書いたりしています。今回も美月ちゃんに父親の有村に気持ちを伝えるように強く促していますが、結果オーライとは言え、彼らの行為には可愛げがありません。私の妻なんか「そんな余計な口出しをするもんじゃないわ」と怒っていました。脚本にも問題があるのでしょうが、テレビ版の双子の兄弟たちの言動にいつも違和感を覚え続けているのは私だけなんでしょうか。 ところで、この連続テレビドラマ「ステップファザー・ステップ」も来週でいよいよ終了しますね。今回の第10話の最初に双子の兄弟の父親である宗野正雄(東根作寿英)が子どもたちと模型の飛行機を作って楽しんだ日のことを思い出す場面が出て来ますし、ドラマの中頃には宗野家の前に佇んでいるところを脇坂信之助(渡辺いっけ)とその妻の芳江(須藤理彩)に誰何されて慌てて逃げ出しており、ドラマの最後には宗野家に電話を掛け、誰も出てこないので留守番電話に何も言葉を残さずそのまま切っています。さて、この父親と双子の兄弟は最終回で再会を果たすのでしょうか、「俺」と双子の兄弟との関係はどうなるのでしょうか、とっても気になるところです。 なお、宮部みゆきの原作『ステップファザー・ステップ』の最終話「ミルキー・ウエイ」のラストでは、「俺」が双子の兄弟と東京ドームで日本ハム対西武戦を観戦した翌日の午後、兄弟を今出新町の家に送っていったときのことをつぎのように書いています。 玄関の鍵を開けてなかに入ると、直ほまっさきにあちこちの窓を開けて空気を入れ替え、哲は留守番電話のメッセージを再生した。 「――もしもし、父さんだよ」 低音の声が、そう言った。俺たち三人、てんでにその場に棒立ちになって、そのメッセージに聞き入った。 「元気にしてるかい? 様子を知りたくてかけてみた。また電話するよ」 少しためらい、間があいた。かすかにクラシック音楽が聞こえている。電話から流れ出てくるその声は、初めて耳にするものだった。これまで聞いたどんな男の声とも違っていた。 「そのうち、一度帰りたいと思っている。そのうち……きっと、そのうちに。じやあ、元気でいるんだよ」 そこで、メッセージは切れていた。 両手を身体の脇に垂らして、哲は電話機を見つめている。カーテンに手をかけたまま、直もつっ立っている。 やがて、おずおずと、哲が言った。 「お父さんは」 同じようにおずおずと、直が続けた。 「父さんの声を」 「初めて」 「聞いたんだね?」 俺はうなずいた。「うん、そうだ」 俺には見えない不思議なパイプラインを通して、双子は心を通わせたらしい。そこで合意に達したらしい。そろって、にっこり笑った。 「ねえ」 「今夜は」 「庭でバーベキューをしようよ」 「星がきれいだからさ」 「そりやいいなあ」と、俺も言った。 その夜のバーベキューほ大成功だった。いい匂いにつられて、近所の連中が何人か立ち寄った。犬もちらほらやってきた。 梅雨明けの夏本番、晴れた夜空に、俺たちの頭の上を横切るようにして、天の川が流れている。この降るような星の眺めは、今出新町の唯一の取り柄だ。 双子の父さんは、いつかきっと、一度は帰ると言っていた。その言葉に嘘はないだろう。母親だって、同じようにして戻ってくるかもしれない。だが、それはいつになる? いつのことだ? そんなことは、誰にもわかりやしない。明日のことを思い煩うことなかれ、だ。 天の川の流れつくところが何処かなんて、いったい誰に知ることができる? 運命も、未来の出来事もそれと同じようなものだ。行くべきところに行き着く。だからそれまでは、流れのままに気楽にしていこう。 それで充分、俺たちは幸せなのだから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年03月18日 21時03分52秒
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