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ポンコツ山のタヌキの便り

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2012年05月22日
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カテゴリ:宮部みゆき作品
昨夜(5月21日)、TBS系で宮部みゆきのミステリー作品『長い長い殺人』(光文社、92.09.15)を原作とするテレビドラマが放映されました。

 この宮部みゆきの原作の特質の一つは、財布を視点人物(視点品物?)にしていることであり、財布にその持ち主の心理やその人の周囲に起きる状況を語らせるという叙述形式にあります。例えば 第5章に当たる『目撃者の財布」では、語り手は19才のバスガイドのマコちゃん(佐藤雅子)の財布なんですが、この財布も持ち主と似て気のよい女の子タイプで、自分のことを「あたし」と言い、東京で一人ぼっちで生きているマコちゃんの「味方」として彼女の身をいつも案じ、「若い娘の足元をすくう風が吹く世間から彼女を守る、ささやかな砦(とりで)」となって彼女を守ろうと思っています。なんという健気な財布さんでしょう。そんな「あたし」は、マコちゃんについて、財布ならではの視点からつぎのような描写をおこなったりします。

「そう、あたしは彼女のお財布。給料日の前に、心細そうにあたしを覗き込む彼女の目の色を知っています。デパートやブティックで、欲しいスーツやブラウスの値札を確かめてから、洗面所でそっとあたしの中身を数えるときの彼女の、やわらかい指の感触を知っています。そのあと彼女がその指を折って、あとの生活を考えたらどこまでお金を使うことができるか計算してる、その小さい声も聞いています。」

 財布ならではの視点から、マコちゃんの若い女の子らしいおしゃれへの切ない願望と、しかし衝動買いはしない堅実な性格とが見事に表現されており、ここに財布を語り手にした効果の一つがよく発揮されているように思いました。いつも持ち主と一緒にいる財布だからこそ、持ち主の行動をつぶさに知ることができるだけでなく、その内面に寄り添って細やかに持ち主の想いを観察することができるんですね。

 では、昨夜のテレビ番組『長い長い殺人」は、原作の財布に語らせるという特質を上手く映像化できたでしょうか。第1章「刑事の財布」、第2章「少年の財布」、第3章「探偵の財布」、第4章「目撃者の財布」、第5章「旧友の財布」、第6章「証人の財布」、第7章「再び探偵の財布」、第8章「犯人の財布」、第9章「再び刑事の財布」としているように、主要登場人物の所有する財布によって各章が区分され、各章毎にそれらの財布がナレーションを担っていますが、しかし原作通りに各章のナレーターが財布でならなければならない必然性が特にあるように思われず、その点では映像化に成功したとはお世辞にも言えないようです。

 宮部みゆきのこの原作のもう一つの特質は、金銭目的の保険金殺人と思われた事件の裏に犯人たちの意外な心理が浮かび上がってくるところにあります。すなわち、私立探偵の河野がつぎのように吐き捨てるように言っている現代社会に特有な病んだ心理が犯罪の裏に隠されているのです。

 「彼らもまた、ただの目立ちたがり屋なんだ。それだけのことさ。しかし、ちょっと頭が良かろうと、美人であろうと、その程度のことじや、一億数千万人の人間がひしめいているこの国で、みんなからチャホヤしてもらえる存在になることなど、まず不可能だ。(中略)彼らの目的は、金じゃない。目的は、今の彼らのような立場をつかむことだった。日本中から注目され、ただの背景、ただの通行人、ただの有象無象から抜け出して有名人になることーただそれだけだ。」

 ここに浮き彫りにされた心理は、宮部みゆきがこの作品の9年後に発表した傑作『模倣犯』(小学館、01.04.20)の連続殺人犯のそれと通底しているものと言えるでしょう。
     
 昨夜のテレビドラマ「長い長い殺人」はそんな犯人たちの心理は巧みに描き出すことができたようです。原作と同様に、テレビドラマでも4つの殺人事件が起こります。そして、それらの事件が塚田和彦(谷原章介)と森元法子(伊藤裕子)とによる保険金目的の相互交換殺人事件ではないかという疑惑が浮上し、その結果、塚田と法子は一躍マスコミの寵児となってしまいます。状況証拠からは二人は限りなく黒いんですが、物的証拠はなく、そんななかでマスコミは塚田と法子とをカメラで追って連日空騒ぎを繰り返します。

 そんななかで、第7章「再び探偵の財布」になって、マスコミの寵児となった塚田と法子の姿を妬んだ予備校生の青沼亮(田中幸太朗)が私立探偵の河野康平(仲村トオル)に電話で自分が真犯人だと伝えて来ます。彼は、テレビに映し出される塚田と法子を見ると「ムカつくんだよな」と言い、自分が「四人を殺(や)ったんだよ」、マスコミにそのことを伝えても信じないが、「河野さんから世間の馬鹿どもに伝えてもらいたい。ぼくという偉大な存在がいるってことを」と言います。探偵の河野はこの心を病んでいるらしい予備校生の自分が真犯人だとする言葉は信じませんが、ただ今回の塚田と法子とが関係したと思われる事件の裏に、この予備校生のような病んだ心を持った人物が実行犯として存在しているのではないかと推理します。

 第8章「犯人の財布」では、探偵の河野が刑事の響武史(長塚京三)と寺島裕之(金子賢)にそのことを伝え、今回の犯罪が金銭目的にあるのではなく、「彼らの目的は、金じゃない。彼らの目的は日本中から注目され、ただの背景、ただの通行人、ただの有象無象から抜け出して有名人になること」であり、そんな思いを持った人物が共犯者として存在する可能性を悟らせます。それで、予備校生をおよがせることにし、また予備校生の自分が真犯人だとする電話の声をテレビを通じて流します。

 このことに実際の殺人犯の三木一也(窪塚俊介)は激怒します。三木一也も心を病んだ人物でした。彼は一流企業に入ったのにすぐ辞めており、2回受けた司法試験に失敗して屈辱感を味わい、「自分こそ尊敬され、崇められ、凡人とは違う存在」であると世間から認められたいとの思いを犯罪行為を行うことで満足させるようになっていたのです。そんな三木一也の病んだ心理を上手に利用したのが塚田和彦でしたが、三木一也は塚田和彦が止めるのも聞かず予備校生を殺害しようと尾行を開始し……。

 第8章「犯人の財布」に登場する田中幸太朗が演じる予備校生の青沼亮の心を病んだ姿が強烈でした。彼の登場により、このミステリードラマの特質である、金銭目的ではなくただ有名になりたい、自己顕示欲を満足させたいという現代社会ならではの犯罪の本質を鮮明に描き出すことに成功したように思います。





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最終更新日  2012年05月23日 19時25分10秒
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