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カテゴリ:本
■□■ 魔王 ■□■
■「小説の力」を証明する興奮と感動の新文学 不思議な力を身につけた男が大衆を扇動する政治家と対決する「魔王」と、静謐な感動をよぶ「呼吸」。別々の作品ながら対をなし、新しい文学世界を創造した傑作!■ ■22-20sの感想■ ■「魔王」 今までの伊坂さんの作品とは一味違った内容でどちらかと言えば純文学風。 時代は今より数年後あとの日本。 主人公は20代のサラリーマンでふとしたことから自分が念じた言葉を相手に喋らせる事が出来るという、 「腹話術」の能力に気が付く。 少し思索的過ぎる嫌いもある主人公であるが、伊坂氏のメスは鋭い。 得意の軽妙洒脱な会話の数々だけでなく、現代の政治のあり方、とりわけアメリカに対する外交政策に対する揶揄した表現が心地よいが。。。 今までの伊坂作品ほど読後感が良くないかもしれない。 しかし、この作品は素晴らしい。 この異様なまでの緊迫感と息苦しさは今までの伊坂作品には見られなかったもの。 後半からラストにかけては、読んでいる方も倒れてしまいそうだった。 問題作と言われるのも頷ける。 今までの作品にも時折垣間見られていた伊坂の黒い部分が全開になったよう。 例によって小道具の使い方が実に巧く、 宮沢賢治の詩が輝いているようだった。 是非声に出して読むべし。 さて、伊坂氏の特徴である他作品とのリンクですが、今回は多いです。 「チルドレン」で登場した居酒屋チェーン店の「天天」が登場します。 あと、リンクとは呼べませんが、「グラスホッパー」という名詞も。 また、物語が終盤に差し掛かった頃、「あの」雨男が登場します。 これはなかなか面白い演出。 テーマ自体は結構重く、思考することから安易に逃避しがちな現代人に著者からの現実的なストーリーとしての警告なのではないかと思いました。 最後に。。。 考えろ考えろ。 生きることは考察することだ。 「俺」は想像世界で絶えず考察し、闘う。■ ■続いて、『呼吸』 『呼吸』は『魔王』から5年後の話。 『魔王』で主人公以上に魅力的に描かれていた潤也、 「消灯ですよ」の詩織が主役になっている。 2人は結婚しており、独裁者候補だった犬養はといえば、 いつのまにやら首相にまで昇りつめて憲法改正へ向けた準備を進めている。 国民投票を間近に控えた頃から投票日までのことを、詩織の視点で書いてある。 主人公の飄々とした感じなど、より伊坂幸太郎らしい節回しが楽しめました。 当初は改憲に対して傍観を決め込んでいた主人公が、 手に入れた「運」の力(じゃんけんに負けない(笑))を使用して、実に粘り強く大どんでん返しを狙う様は、 随分と気の長い話だな(笑) と思うもその着実な歩みに安心にも似た期待を抱いてしまう。 自分が平和で安全で穏やかな世界にいられればいいと思っていた潤也が、 そうじゃない、と思う部分を自然に描き、 お金の力で世界を変えようとする主人公をさらりと肯定するあたりの発想が面白い。 なんだか続きがとっても気になる話です。■ この二作は良い。 すすめる。 魔王/オススメ度(★★★☆) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.10.28 15:44:27
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