移籍市場を振り返る~激戦の終盤戦へ~
冬の移籍市場がクローズされた。最後は駆け込み的に幾つもの移籍が成立し大物選手も数多く動くなど、世界に暗い影を落とす金融危機も無縁のような錯覚に陥ってしまいそうであった。だがリーグ別にその影響は如実に表れている。イタリアメディアの試算によれば、今冬のセリエAにおける移籍に際して支払われた移籍金は前年比約43%減の約33億円であるという。スペインではレアルがフンテラールとディアッラの2人に対して約52億円を支出したが、これはバルセロナの独走と怪我人の多さなどチーム事情によるところも大きい。レアル以外で言えばベティスがRオリベイラを復帰させたが、残りのクラブはほとんどが懐具合も考慮して現状維持を選んでいる。翻ってプレミアリーグは移籍が活発であった。プレミア全体で支払われた移籍金は約212億円であり、昨年と比較しても約13億円増という数字になっている。ここまで膨れ上がった理由の1つは間違いなくシティの存在が大きく影響している。ブリッジ、ベラミー、デヨング、ギブンと各国代表クラスの選手を次々に獲得し、シティが湯水のように支払った移籍金は述べ約66億円。この数字はプレミアリーグ史上最高額であり、スペイン全体の数字をも上回っているという。バックにオイルマネーが付いているとはいえ、世相を逆行するような市場での動きは当然多くの反発を招き、デヨングに関しては半年待てば6分の1の移籍金で獲得できたことから皮肉を言われたりもしている。そのシティに肉薄する動きを見せたのがトットナムである。デフォー、キーンというかつての2トップだけでなくシンボンダやパラシオス、クディチーニとプレミア経験者や元古巣の選手を獲得し、現状を打破すべく即効性を持たせた補強戦略で約60億円を投資した。だが両クラブ以外の移籍を見ると同じプレミア間の移籍がほとんどであり、またそのほとんどがローン移籍であることから、完全移籍させるだけの経済的余裕がないことが窺える。だが一方でシティやトットナムから出る移籍金が海外に出回らず国内で流通していることに関しては「金は天下の回りもの」ではないがポジティブに捉えても良い部分ではないだろうか。ところで、プレミア間移籍がこれだけ活発な原因として経済的側面だけが大きく影響しているわけではない。もちろん先に述べた金融危機やポンドの対ユーロ下落による選手輸入のデメリットも影響はしているが、未曾有の大混戦となっている残留争いもこの事に関して決して無関係ではない。現在最下位のWBAの勝点は22であるが、9位フルアムの勝点が29と下位12クラブが勝点差7の間でひしめいているわけだ。さらに細かく言えば14位トットナムが勝点24、そして12位ボルトンが勝点27と、試合数にばらつきがあるとはいえ1試合の勝敗で順位が大きく入れ替わる可能性がかなり高くなっているのである。そうなると首脳陣は他と差別化を図るべく、また弱点を埋めるべく補強を考えるというもの。しかしクラブの金庫に余裕は少ない。ならば最低限のノルマである残留という結果に向けて今シーズンまでのローンで選手を獲得することが唯一の手段となってくる。そして選手を獲得しても時間をかけてチームに馴染ませるという悠長なことは言ってられない順位表であるがゆえ、海外クラブより少しでもその水を知っているプレミア所属選手がターゲットになってくる。これは直接のライバルから選手を引き抜く意味でもあり、今冬は特に活発な動きが見られた。シーズン終了まで残り3ヶ月強。夏にこの冬を後悔しなければならないのはどのクラブなのであろうか。ほな、また。