顧客の潜在的ニーズは目には見えない。しかし、春先でも気温が上がれば、冷やし中華に手を伸ばすように、顧客の心理はできている。そこで、顧客心理を徹底して読み取ろうとするのが鈴木流経営学の最大の特徴だ。前掲のインタビューでも紹介されたイトーヨーカ堂での「キャッシュバック」や「現金下取りセール」はまさに、顧客心理をついた不況突破企画だった。
セブン-イレブンの店舗でも日々、心理学経営の実践が求められる。ゴールデンウイーク中にこんな取り組みをした店がある。連休中は必ずしも家族全員で出かけるとは限らない。一人取り残されたお父さんは夕食をどうするか。コンビニでふと手を伸ばしたくなる商品は何かと考えて、アルバイトがレトルトカレーを特集した売り場をつくったのだ。結果は大当たり。家で留守番をするお父さんの心理をつかんだ企画だった。
お父さんたちに事前に「連休中、家で留守番をしたらコンビニで夕食用に何を買うか」と聞いても、「レトルトカレー」とは答えなかっただろう。目の前に提供されると手を伸ばす。「言」と「行」が一致しない「顧客の言行不一致」の時代には、市場調査などを行っても潜在的ニーズはつかめない。鈴木氏はいう。
「潜在的ニーズは自分の中にもある顧客としての心理を掘り起こして初めてつかめる。だから、“顧客の立場で”考えることが重要なのです」