以前「博士の愛した数式」という小説を読んで、数学の美しい世界に感動し、さらに映画「博士の愛した数式」をみて原作の静謐な数学愛の世界が描かれているのにますます感動した。その勢いで数学者藤原正彦氏と「博士の愛した数式」の作者の小川洋子氏の「世にも美しい数学の話」を読んだが、これは期待ほど面白くなかった。もっともその期待が大きすぎたのかもしれないが…。ただこの対談の中にインドの天才数学者ラマヌジャンの話があって、なんとなく興味をひかれた。だからこのラマヌジャンを描いた映画ができたときいてぜひ見てみたいと思った。
映画はラマヌジャンと共同研究を行ったハーディー博士の回想という形ですすむ。異文化を背負った者同士の理解、この異文化にはインドと西欧というだけではなく、敬虔なヒンドゥー教徒のラマヌジャンと無神論者の博士との壁というものもある。また、ラマヌジャンがインド人であるがゆえに英国青年から暴行を受ける場面もあるが、これなどは今日のヘイトと全く同じである。いつの世も劣等感を持つ人間が、自分よりも下位に位置づけた異人種に不満の矛先を向けるのはよくあることだ。
話は淡々とすすむが、背景に数学の世界の静謐な美があることは「博士の愛した数学」に似ている。
最後にでてくる「タクシーのナンバーの1729はつまらない数字だ」という言葉に「いや、そんなことはない。1729は異なる立法数の和で表すことができる最小の数だ」というのは、かなり有名なエピソードで、1729にはタクシー数という異名もあるという。たしかに1729は1000+729でも、1728+1でも表すことができ、729は9の三乗、1728は12の三乗となっている。
ラマヌジャンの業績の一つの分割数の公式はブラックホールの研究に役立っているという。分割数とブラックホール…いったいどんな関係があるのだろうか。たぶん説明を聞いてもわからないと思うが、数の神秘と宇宙の神秘がどっかで重なっていると思うと非常に興味深い。