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カテゴリ:雑感
今年の歌会始に被災地から選ばれた歌は今年の大河ドラマでも注目されている源氏物語に関するものであった。花散里が源氏物語の女君の中で一番好きだと言っていた友人が和服の似合う母になっているという歌だ。花散里は源氏物語の中では決して出番は多くないし、源氏との出会いの場面も描かれていない。ちなみに源氏物語の女君について、すべて光源氏との出会いが描かれているわけではない。しかし、花散里については、出番が多くないからと言って決して源氏との縁が薄いわけではない。光源氏は栄華を極めた時、六条院に四季の寝殿を造営し、四季それぞれに女君をすまわした。秋の御殿については養女格の秋好中宮だったので、四季の寝殿に住むことができたのは、数多いる女君の中で三人だけなのだが、春の御殿には一の女ともいわれる実質的ヒロインの紫上が住み、冬の御殿には中流貴族の出身ながら源氏の姫君を生み、その子が中宮になるというサクセスストーリーのヒロインの明石上が住む。花散里は夏の御殿に住み、源氏の息子の夕霧の養育もまかされる。最重要の女人の扱いである。 それでは花散里の君というのはどういう女性だったのだろうか。源氏物語の女君は百花繚乱の美人ばかりという印象があるが意外にそうでもない。花散里はまったく見栄えのしない貧相な女性として描かれていて、髪も薄く、かもじでも使えばよいのにと評される。このあたり息子夕霧の養育をまかせたのは、かつて義母と不倫をした光源氏にとって、けっして息子にそうした気をおこさせない女性として選んだのだろう。実際、夕霧は台風の後の見舞いで、紫の上を姿をかいまみて、その超絶な美しさに心を奪われる。 ただ、だからといって不美人で安心感を与えるだけの女性というわけでもない。源氏が須磨に下る直前に花散里を訪れ、それが物語での初登場になっている。順境の時、自慢したい時に会いたい女性はいても、逆境の時に会いたくなる女性というのは光源氏でもそれほどいない。それにまた、的確な人物評や家政の名手でもあり、染物などをよくし、夕霧の友人達の供応も立派に行う。楽器を弾くなどはしていないが、相当に賢い女性だろう。 たしかに妻にするのなら花散里よりも紫の上や明石の上がよいのかもしれない。けれども、人生、一生トロフィーワイフをそばにおきたいような順風万般の人生を歩む人は多くない。妻として長い時間をともにすごすなら、安心感を与える賢い性格美人が正解ではないか。 また、友人として身近にいるとしたら、圧倒的に花散里だろう。紫の上のような他を圧倒する華やかな美貌、煌めく才気、難のつけようもない気配りある性格は、非の打ちどころもないだけに、無意識の嫉妬や羨望を誘い、周囲の人にとっては、心穏やかでない部分があるように思う。返歌も上手い返歌をすぐにかえすのは紫の上だろうが、花散里の方はじんわりと心にしみる歌を返してくれるような気もする。 最後に自分がもしもなるなら…というと難しい。最初から源氏の最愛の君であることは諦め、子供もいなかった花散里よりも、長生きして多くの子をなし栄華の生活をした「勝ち組女性」といわれる女性達がいる。玉鬘や雲居雁などである。そうした目でみると、源氏物語最高の勝ち組は脇役だが惟光の娘の五節の君かもしれない。五節の舞姫に選ばれるほどの美人で内侍になるほどの才女で、夕霧の妻として何人もの子を生む。その子供達も正妻の雲居雁の子供達よりも皆姿が良く出来も良いということがさらりと書いてある。中流貴族の娘(最初の源氏の読者層?)としては圧倒的な幸い人だったように思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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