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2010.03.23
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  『蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ』室生犀星(講談社文芸文庫)

 上手なタイトルだなーと、思います。まさに内容にぴったりのタイトルであります。

 特に『われはうたえども……』の方は迫力満点ですが、この迫力はいったいどこから来るのかというと、もちろん「老人文学」ゆえ、であります。

 「老人文学」という言い方があるような無いような、近年これだけ日本人の平均寿命が延びて、いわゆる作家の方も長生きの方が沢山いらっしゃいますから、そんな「ジャンル」の小説も少なくないと思いますが、はて、私は本ジャンルのどんな小説を読んできたでしょうか。

 一番印象に残っているのは、これはかなり以前に読んだのでほぼ内容は忘れており、いずれ再読して、本ブログでも取り上げたいと思っている小説ですが、耕治人の『天井から降る哀しい音』。内容はほぼ覚えていませんが、かなり印象的だったという記憶があります。

 次に古井由吉の『白髪の唄』、これは本ブログに取り上げました。朦朧として内容がよくわからなかったところが、いかにも「老人文学」じみて(?)、よかったです。

 川上弘美の『センセイの鞄』も一種の老人文学ですよねー。
 文学の「老舗」で言えば、谷崎潤一郎の『鍵』とか『瘋癲老人日記』などは、このジャンルの草分けなのかも知れませんが、これらの小説は老人の「性」をテーマに絞り込んでいますから、少し「特殊」な感じもします。

 とにかくそんな「老人文学」の白眉の一冊が、この上記の作品集です。
 ここには4つの小説と1つの詩が入っていますが、少し異色な感じのする『老いたるえびのうた』という詩が、筆者の絶筆だそうです。この詩がまた絶品であります。

 この詩も「やぶれかぶれ」ですが、4つの小説の「やぶれかぶれ」が、とても強烈な迫力を持っています。

 咳が酷いのでその反射痛が左の背中にあらわれ、物をいうと咳きこんで言葉がきれぎれになった。まるで言葉がまとまらない、私は、ばばばといったりひぃひぃ言ったりするだけで、腰を折り手で畳をささえ、咳のおさまるのを永い間待ったが、その苦しい間に煙草の要求が烈しく起った。ひどい心配事のあるときに煙草がのみたくなる、あの心理なのだ。咳の小止みのあいだにただ一つの救いである煙草を一服やろうと、私は煙草に火をつけた。そんな物をうけつける筈がないのに、それをとおそうとするのだ。馬鹿の骨頂なのだ。間もなく煙にむせ返って咳は巻き返して、のた打ち廻った。(『われはうたえども…』)

 この小説は、主人公の老作家が、「排尿」ができない病になり、それを治療する経緯を語るものですが、まさに「やぶれかぶれ」の迫力に満ちています。

 例えば、円地文子に『朱を奪うもの』という、老女が自らの半生を語る小説がありますが、その冒頭には、片方の乳房を失い、子宮を取り除き、そして今度は歯をすべて抜き去った主人公の、鬼気迫る語り出しが描かれていました。

 一体に「老化」を語る小説には、どこか一種「偽悪的・露悪的」な迫力を持つものが多いと私は思います。

 それは言うまでもなく、人生のゴールがさほど遠くない視野の中に見え始め、なにより日々不如意になっていく、加速度的に老化していく肉体を見つめ続ける作家の、強靱な精神が紡ぎ出すものであるからです。
 それに私たちは、迫力を感じずにはいられないわけです。

 さてそんな老化をダイレクトに扱った小説も面白いですが、残りの3作は、直接老化を取り上げたのではなくて、自らの「嗜好」を描いた作品です。

 陶器、金魚、などどれも筆者自身の実際の嗜好を描いたものでしょうが、それが一般的な程度を越えて、まさに「淫する」ように、舐めるように愛する様が描かれます。
 これは、老人のエロスとも関係してくるのだと思いますが、ここにも迫力満点の「やぶれかぶれ」が読みとれます。

 しかしこういった、人生の終盤における「やぶれかぶれ」の生命の炎のようなものを眺めていますと、「老いる」という状況が、まさしく人間精神の一つのありようであり、そしてそこにはやはり、例えば「若さ」と全く同等な豊饒さがあるのだと、つくづく感じます。

 老いることもまた、人生の豊かさの一つの表現であります。


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Last updated  2010.03.23 06:19:59
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