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2010.05.06
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  『風立ちぬ・美しい村』堀辰雄(岩波文庫)

 水車の道の上へ大きな枝を拡げている、一本の古い桜の木の根元から、その道から一段低くなっている花畑の向うに、店の名前を羅馬字で真白にくり抜いた、空色の看板が、さまざまな紅だの黄だのの花とすれすれの高さに、しかしそれだけくっきりと浮いて見えている。(『美しい村』)

 父の側にいることがお前に殆ど無意識に取らせているにちがいない様子や動作は、私にはお前をついぞ見かけたこともないような若い娘のように感じさせた。(『風立ちぬ』)

 かつて三島由紀夫は、堀辰雄の文章をこう述べています。

 堀辰雄氏の文章はまるでどの文章にも堀辰雄製という印鑑が捺されているように、誰の眼にもすぐわかる特徴をもっています。作家がこれほど特徴のある文体をもつことは、作品の世界を狭くする危険もないではないが、堀氏はそれを堂々と押し通して、長く病床にありながら、自分の芸術的世界を守り通した稀有な作家であります。(略)氏は自分の気に入ったものだけを取り上げて、自分で美しいと思ったものだけに筆を集中しながら、自分の気に入った言葉だけでもって、美しい花籠を編みます。『菜穂子』のような長編を書きはしましたが、やはり本質的な短編作家であって、その文章は明晰さに仮装された感覚の詩でありました。(『文章読本』)

 さすがに上手に解説していますよねー。でもよく読めば、「自分で美しいと思ったものだけに筆を集中しながら、自分の気に入った言葉だけでもって、美しい花籠を編みます。」なんて個所は、堀辰雄の文章の解説に託して、読者に、自らの小説を読む際の注意事項を教えているみたいですね。
 (この三島の『文章読本』については、井上ひさしがその分析力を認めつつも、かなり強い嫌悪感を表しましたが、今読んでみると、要するにこんな「上から目線」のせいだったのかも知れませんね。)

 ともあれ、三島の堀辰雄文体の説明については、全くその通りだとは思いますね。
 しかし、今回僕が取り上げたこの短篇集には、上記に一部を抜き出した二つの短編小説が入っていますが、その文章については、三島の一文に一言で説明されているにもかかわらず、実は微妙に異なっています。

 まず、冒頭の『美しい村』から抜き出した一文ですが、どうですか、すぐに文脈が辿れましたか。最後の「くっきりと浮いて見えている」のは、何がそうであるのか、すぐに分かりましたか。
 僕は、四回ほど読んで(そのうち二回は声を出しながら)、それでやっと、たぶんこうだろうと思えたくらいであります。

 『美しい村』は、こんな文章が、あまり改行されることなくびっしりと詰まったまま続いていきます。読んでいると、なにか、抽象画を見ているような、あるいは音楽を聴いているような感じのする文章です。

 上記の引用の二文目は、『風立ちぬ』から取りましたが、こういう無生物主語の文もしばしば見られます。実に独特な、なにか「眩暈」の様な感じを受けますねー。

 さらにもう一つの特徴として僕は気が付いたのですが、そんな抽象性の高い文章なのに、比喩表現が殆どありません。事物や風景の説明がそのまま克明に描かれているばかりなんですね。

 なるほど、三島が述べるところの、いかにも堀辰雄独特の(そもそも一文が極めて長く、そして、読点の打ち方の独特であることが、文脈理解を難しくさせています)、少しずつ屈折しながら、飛び石のようにイメージを次々捉えていく文章でありますね。

 さて、このような文章は、もちろん読み始めにおいては読者に一定のストレスとなりますが、さらに読み続けて、筆者独自の文章の「息」に慣れてくれば、この読みづらさは、まるで朝靄の掛かった別荘地の林の中を散歩するように、独特の拡がりを持ったイメージを伴ったものとなってきます。

 「朝靄の掛かった別荘地の林の中」と今書きましたが、もちろんこのイメージは、実際のこの小説の舞台がそうであるからですね。
 軽井沢の別荘地が舞台であります。

 そんな風に捉えてみますと、この作品は、文体と内容が渾然一体となった、まれに見る美しいマーブルのような作品だと言うことができますね。

 しかし、それだけであるなら、いくら何でもさほど堀辰雄の小説が読まれるとは思えません。やはり、文脈のたどりにくい文章は読みづらいです。
 あー、いいなー、堀辰雄だなー、と思わせるのは、次の『風立ちぬ』でありました。

 次回に続きます。


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Last updated  2010.05.06 06:29:21
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