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2013.05.06
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カテゴリ:昭和期・後半

  『官能小説家』高橋源一郎(朝日文庫)

 どこで読んだ文章であったか覚えていないのですが、たぶん複数回同趣旨の文脈を眼にした記憶がありますからある程度間違っていないのだと思いますが、何の話しかというと、リヒャルト・ワーグナーのエピソードであります。

 ワーグナーが、ベートーヴェンの後に交響曲を書く何の意味があるか、と言ったというエピソードであります。

 また、よく似た「文脈」の中で、ブラームスが交響曲第1番を書いたのは、43歳の時であった、と。

 ……私はクラシック音楽に関して、好きなだけで何にも分かってはいませんので、ほとんど「与太話」の如くではありますが、確かにベートーヴェンの後に交響曲を書くのは、かなり勇気のいったことだろうと愚考いたします。

 さて、何の話しかといいますと、冒頭の高橋源一郎氏であります。
 私にとってフェイヴァレットな作家の一人ではありますが、発表される作品の出来の善し悪しについて、ちょっと差の激しい方でもあります。

 で、なぜそうなのかと考えますに、この方は小説についてとっても苦悩していらっしゃるからではないか、と。
 では、なぜ苦悩していらっしゃるかとさらに考えますに、それこそが「ベートーヴェンの後の交響曲」ではないか、と。

 例えば本書にこんな事が書かれています。
 明治の作家半井桃水が、酔っ払って森鴎外と夏目漱石に絡んでいる場面(まぁ、こんな場面設定そのものも、高橋氏の苦悩の現れでありましょーがー)であります。

「(略)……ぼくはすぐに目を閉じた。それはまがい物だった。すべての部分が他の小説の寄せ集めでしかなかった。言葉も感情もすべてが他人の借り物だった。それがぼくの小説だった。ほんとうはその時、ぼくは書くことを止めるべきだったのだ。だが、ぼくにはそれができなかった。ぼくは小説家のふりをし続けた。そうすれば、いつかぼくもほんものの小説を書くことができるようになるかもしれない。ぼくはそういい聞かせてきた。だが、そんな時が来るはずなどなかったのだ」
「小説にほんものもにせものもありはしない」漱石が静かにいった。「わたしもまた、言葉や感情を借りて来る。小説家のふりをしたことがない小説家などあるわけがない」
「だが、あなたたちとぼくは違う。あなたたちの作品は日本語がこの世に存在する限り残るだろう。だが、ぼくの作品は出たとたんに忘れられる。時の裁きは公正だ」
「未来のことなどわからない」林太郎が答えた。「わたしは時の裁きも信じない。わたしたちが知っているのは、この国のいま、この言葉のいま、それだけだ」
「あなたたちはその謙虚さにおいて傲慢だ。あなたたちに理解できるのか? 才能のない作家の苦しみを。それでも書いていたいと願う者の苦しみを。ぼくの苦しみこそ普遍なのだ。書くことのできないぼくこそ、叶わぬ希望を持って生きるしかない大多数の者たちの代表なのだ。(略)」


 ……こうして書き写していて改めて分かったのですが、高橋源一郎さんって、真面目な人ですねー。なかなか、こんな文章は書けませんよ。

 ところで、なぜ高橋氏がこのような苦悩に取り付かれてしまったかといいますと、それは小林秀雄の悲しみであります。

 ……なんか話しがどんどん横滑りしているような気もしますが、まぁ、もう少しご勘弁いただきたいと思います。
 いえ、別に突飛なことを言い出すのではなくて、高橋源一郎氏がまれに見る小説読み技巧者であると言うことであります。

 これはもうほとんど定説化しておりまして(たぶんしていると思うのですが)、筆者の書く文芸評論はきわめてレベルが高く面白いと、私も全くそのように思うのであります。
そして本人もそのことはきっと自覚的であります。
 だって、本書にもこんな風に書いてあります。

 それからもう一つ、付け加えなければならないことがある、と桃水は思った。それを教えられるのは最高の作家ではない。なぜなら、最高の作家は小説の書き方を自然に知っていて、どうやって作られるか気にならないからだ。それを教えることができるのは、小説の書き方を知ろうと死に物狂いで努力してきたぼくのような作家、ぼくのようについに最高の作家になることができない人間だけなのだ。

 ……ほんと、なんか真面目な方ですよねー。
 しかし、そんな小説読みの上級者である高橋氏は、結果的に自ら述べるごとくあたかも小林秀雄のように「眼高手低」であると言うわけですが、あれっ? こんなところに小林秀雄を出すのはよくなかったかしら。

 ともあれ、筆者の苦悩は誠に深く、今回取り上げた小説も、全くそんな見本みたいな作品でありますが、次回、もう少し丁寧に見ていきたいと思います。

 あ、最後になりますが、そして言わずもがなの事柄ではありますが、冒頭で触れたワーグナーは、その後「楽劇」という独特のオペラを自ら作り上げほとんど教祖の如くになり、またブラームスの書いた交響曲第一番は、ベートーヴェンの第十番であるとまでの高い評価を得たのでありました。歴史のおさらい。


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Last updated  2013.05.06 16:07:02
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