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カテゴリ:明治~・劇作家
『古い玩具』岸田国士(岩波文庫) この文庫本には、以下の戯曲が収録されています。 『古い玩具』(T13) 『チロルの秋』(T13) 『ぶらんこ』(T14) 『紙風船』(T14) 『驟雨』(T15) 『葉桜』(T15) わたくし、初めて岸田国士の戯曲を読みましたが、圧倒されましたねー。 おしゃれですねー。 水際だって疾走しているようであります。とても90年くらいも前のものとは思えません。なるほど、こんな作品群をきっと「大正モダニズム」というんですねー。 そんな風にして考え直してみますと、「大正モダニズム」、いわゆる大正という時代の華は、芸術方面においてもたくさんありそうですね。 ちょっと調べてみたのですが、まず文学においては、白樺派もさることながら、例えば萩原朔太郎、宮沢賢治、梶井基次郎あたり。 うーん、朔太郎とか梶井なんて、なるほどそんな文脈で見ると、とても華やかでみずみずしい感じがしますね。 美術方面で、佐伯祐三という名前を見つけたのですが、この方もいかにも大正モダニズムらしい方ですよねー。初めて佐伯祐三の絵を見たとき、やはりそのモダンさにはっと息をのみましたよ。 と、まあ、そんなモダンでシャープな岸田国士の戯曲ですが、作品としてよりシャープなのは『チロルの秋』以降でしょうが、処女作の『古い玩具』という作品は、とても面白いテーマを扱っています。今回はこれを中心にちょっと考えてみますね。 そのテーマとは、一言で言うと「日本と西洋」ということであります。 近代日本文学史で最初に(全く最初でなくでもかなり早い時期に)このテーマを取り上げたのは、やはり鴎外・漱石でしょうか。 取り上げ方として、まず鴎外は、日本は普請中だとして即座の優劣判断を避けました。 続いて漱石は、西洋的思考は永遠に満足ということを知らないと言い、あるいは日本は自己本位が重要だと指摘しつつ、一方で『三四郎』の広田先生の口を借りて、日本は滅びると言わせています。 その次の世代の文学者としては、誰が挙がるでしょうか。 永井荷風ですかね。でも荷風の取り上げ方は、何というか、西洋に対して全面降伏っぽい感じがします。むしろ谷崎のほうが、おのれの女性に対する嗜好と絡めながら、西洋賛美をしていたかと思えばそのまま口をぬぐって日本伝統回帰と、なかなか粘着質の二枚腰でしぶといです。あれはきっとマゾヒズムの勝利でしょうね。 もう一世代次ではありませんが、その後このテーマに触れた文学者は、ちょうど時代が大正末から昭和初年の「凄惨」な時代と重なったせいで、例えば武者小路はヨーロッパから帰った後、かつてあれほどトルストイトルストイと言っていたにも拘わらず、反西洋的に変質しました。 また、横光利一も同じ道を歩み、日本が神の国になってしまいました。 さて、その谷崎と横光の真ん中あたりに位置するのが、この岸田の『古い玩具』という作品であると思うんですが、その苦悩の表し方が、とてもセンスがいい。 どこを取り上げても面白いのですが、例えばこんな部分。 ルイーズ 西洋の男が日本の女に惹きつけられる理由は、男として、 そんなに名誉にならないって或る人が云ってますね。 留雄 その反対の場合は。 ルイーズ 日本の男が西洋の女を好かない理由。 留雄 それも、男の名誉にはならないわけですね。 ルイーズ (笑いながら)まあ、そうですね。 「日本と西洋」という問題を男と女の問題にしてしまったことは、文化の矮小化とも思う一方、極めて本質的な象徴性を可能にしたとも思います。 ただ、このようなテーマを、岸田はいつまでも追い求めませんでした。 さらにその後、そんなに単純に因果関係が整理されるとは思いませんが、岸田は大政翼賛会の文学者関係の中心者になっていきます。 しかしまぁ、例えば芥川の小説家としての実働は十年ほどで、これは師であった漱石もほぼ同様でありましたが、なかなか、優れた仕事を継続させるというのは、難しいものでありますね。(やはり谷崎は凄いですねー。) よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.10.06 14:55:46
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