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2015.03.14
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カテゴリ:明治~・劇作家

  『黙阿彌名作選』河竹黙阿彌(新潮文庫)

 本書は、明治の初年から十年代くらいに初演された以下の五本の歌舞伎台本が収録されている戯曲集です。

  『天衣紛上野初花』『高時』『船弁慶』『新皿屋舗月雨暈』『辨天娘女男白波』

 このままでは読めないタイトルがいくつかありますが、まぁ、いっか、別に支障なかろうと、かなりアバウトに進んでいきます。(ははは、は。……)

 河竹黙阿彌は1815年生まれ。明治維新の時は五十歳半ばでありました。
 以前、仮名垣魯文の『安愚楽鍋』を読んだ時に、わたくし、当たり前のことで分かったつもりでいながら実は何も分かっていなかった事を一つ学んだ経験があります。
 それは、仮名垣魯文は優れた筆力を持ちながら、なぜ明治以降の新しい文学を作り出す作家のひとりになれなかったのか、ということであります。(言わずもがなの補足をしておきますと、仮名垣魯文はこの時代の戯作者の中では、間違いなく傑出した存在でありました。)

 その原因をかつての私は、簡単に「才能の(質の)問題」と片付けて考えていました。
 しかし『安愚楽鍋』を読み、仮名垣魯文について少し調べてみますと、魯文が明治維新時に四十歳であったことを知り、そこで私ははっとしたというわけです。
 昔の「四十歳」は、すでに初老であります。

 社会から価値観から人生から何もかもが大きくがらりと変わってしまう歴史的な大転換期に、個人が一体何歳の時に遭遇するかは、極めて重大な問題であり、それはほとんど個人の才能・力量の範囲を超えてその人生を決定づけてしまいます。
 人生の「最盛期」をすでに終えた後に、歴史的大転換期を迎えるということの意味。
 つまりはこのことに私は、改めて気づかされたと言うことでありました。

 さて、冒頭の河竹黙阿彌でありますが、この劇作家の人生にも魯文とよく似た状況が見られます。(明治維新に遭遇した時の年齢は、魯文よりも黙阿彌の方が高齢です。)
 ただ、本職としていた表現媒体、つまり小説と芝居台本の差が、両者の以降の生き方並びに死後の評価を、結果的に分けた気がします。
 それはつまり黙阿彌が、急激な変化を可としない大多数の保守的大衆の嗜好の緩慢な変化に何とか乗り続けることができた、ということであります。

 もう少し具体的に述べれば、黙阿彌が得意とし、そして時代が要求したのが、今言うところの「ピカレスクロマン」であったことも、彼に味方しました。
 思うに、このことはなかなか意味深いことでもあります。

 そんな「ピカロ=悪漢」の魅力とは何か。
 これはいろいろ考えられそうであります。私自身、それについて考えることがとても楽しそうだと感じることに、すでにピカロの魅力の一端が見られます。
 例えばそれは、やや蓮っ葉に語れば、入院患者間の大病自慢に似ていそうです。また、江戸長屋での貧乏自慢にも似ていそうです。

 本書に「白浪五人男」の「勢揃い=名乗り」の場面がありますが、それはかつての「血湧き肉躍る」という言葉そのままの、こんな殺し文句になっています。

駄右 問はれて名乗るもおこがましいが、産れは遠州浜松在十四の年
   から親に放れ、身の生業も白浪の沖を越えたる夜働き、盗みは
   すれど非道はせず、人に情を掛川から金谷をかけて宿々で、義
   賊と噂高札に廻る配附の盥越し、危ねえその身の境界も最早四
   十に人間の定めは僅五十年、六十余州に隠れのねえ賊徒の首領
   日本駄右衛門。
辨天 さてその次は江の島の岩本院の児上り、平生着慣れし振袖から
   髷も島田に由比ヶ浜、打ち込む浪にしつぽりと女に化けた美人
   局、油断のならぬ小娘も小袋坂に身の破れ、悪い浮名も龍の口
   土の牢へも二度三度、だんだん越える鳥居数、八幡様の氏子に
   て鎌倉無宿と肩書も島に育つてその名さへ、辨天小僧菊之助。


 ここには、天保期から幕末にかけて爛熟した江戸文化の世相の中核となった頽廃の魅力に加えて、庶民がきっと意識の深層に持っていたであろう正義と悪の相対性、つまりは悪人こそがスーパーヒーロー=反権力であるということへの快哉が、月並みといえば月並み表現の中に、今読んでも懐かしい思いの湧き上がる伝統的な五七調、掛詞や縁語等々の技巧で、きらびやかに飾られながら描かれています。

 音楽を代表とする「再現芸術」の特徴の一つに、繰り返しは効果を高めさえすれ、それだけではマンネリズムに直結するものではないということがありますが、芝居台本と小説の間にも同種の差異があると思います。

 戯曲は、新しい人々が再演をする(=繰り返す)ことで同時代的な基礎教養を広く提供し、そして小説よりも長く生き残る可能性があるとは、実は少し前、わたくしが今さらながらに何となく考えていた事柄でありますけれども。


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Last updated  2015.03.14 07:48:41
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