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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2018.06.09
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  『菜穂子』堀辰雄(岩波文庫)

 大概なんにも知らない人間ですが、いえ、わたくし自身のことですが。
 それでもまぁ、少しは他の分野のことに比べると相対的に知っているだろうと恥ずかしながら自負している(本当に恥ずかしい)近代日本文学の事についても、へえー、知らなかったなぁ事案が多すぎる、と。

 何のことかといいますと、これも出典曖昧話題で誠に申し訳ないのですが、かつて「漱石山脈」という言葉があったように、ある時期まで「堀辰雄山脈」は近現代日本文学のメインストリームであったと、何かで読んだことです。

 言われてみれば、そうかーと気づくでしょ。
 堀辰雄から、軽井沢経由で中村真一郎とか福永武彦とかに行くラインですね。この第二次戦後派の方々の影響力は、さらにどの辺まで行くのか。
 詳しくは知りませんが、博覧強記とかインテリゲンチャっぽいみたいな共通項で辿っていくと、第三の新人とか大江健三郎あたりを巻き込んだり飛び越えたりしながら、ひょっとしたら丸谷才一あたりまで繋がっているように感じます。とすれば、丸谷氏すでに亡き今でも、何となくセンターラインではないですか。

 そんな「堀辰雄山脈」があった、と。(ただし、堀辰雄の前の繋がりには芥川龍之介がいて、とすれば、これは芥川―漱石の「漱石山脈」の末裔じゃないかとも考えられはするのですが。)

 そんな堀辰雄の作品集です。
 かつて私は堀辰雄の熱心なファンでもなかったのですが(だから堀が「山脈」を作っているような方とは知らなかったのですが)、むかーし、『曠野』という短編小説を読んだ時は、かなり強いインパクトを受けました。
 しかし、その後他の作品に広く手を出さなかったのは、今考えてみると二つの原因です。

 1.『曠野』のインパクトは、少なからず気味悪く殺風景な印象のものだった。
 2.その後読んだ『風立ちぬ』などに、勝手に強い通俗性を感じた。

 この辺りでしょうかね。
 この「2」については、冒頭の短編集中の作品にも少なからず感じられるものがあって、例えば何といっても『聖家族』の冒頭、

  ​死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。​

なんてところを読んでいると、とにかくまず、うーんと唸ってしまいます。
 (しかし今回私がちょっと思ったのは、これはいわば中原中也的な才能ではないかということでして、中也はインパクトの強い短いフレーズを作り出すのがとってもうまいと私がかねがね思っていたということです。しかしともあれ、この才能そのものには当たり前ながら、罪はない、と。)

 さて本書は、堀辰雄の生涯のテーマであった「菜穂子」系の中短編小説を集めたものです。この系列の筆者の意図は、収録されている『菜穂子』の「覚書」にほぼ書いてあります。
 『アンナ・カレーニナ』あたり(これは書いていませんが、日本の小説でいえばたぶん有島武郎の『或る女』あたり)を狙ったものだということですね。

 しかし量的にとても「アンナ」になれなかったのは、ひとつは「文体」のせいでしょうか。この「詩的」な文体では、やはり量的に豊かなものを目指すには限界があるような気がします。

 そしてもう一つ挙げるとすれば、私がかつて『曠野』に思った殺風景さと同質のものの存在が、それを阻んでいたように感じます。(それは何と言いますか、かなり雑駁にまとめますと、長編小説に必要な人生に対するもっとアバウトな許容が欠けているという感じ。)

 また、この殺風景なものの正体をさらに突き詰めていけば、それは堀辰雄の現実の肉体の問題にきっと突き当たるのでしょうが、しかし堀辰雄は享年48歳です。
 同病で亡くなった作家たちの、例えば梶井基次郎は31歳、織田作之助33歳、国木田独歩36歳、樋口一葉に至っては24歳であります。

 こんなことをあれこれわたくしが書いたところでどうというものではありませんが、48歳まで生きたこの筆者は(晩年は闘病生活にその時間の多くを費やされたようですが)、やはり書くべきストーリーをあまり持っていなかったのではないかと感じるのは、私の愚かなバイアスのかかった見方でありましょうか。

 いえ、病によって最愛の対象が衰弱していく様を見つめる眼に、文学的なテーマがないといっているわけではありませんが……。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2018.06.09 10:18:46
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