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analog純文

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2021.07.18
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  『かか』宇佐見りん(河出書房新社)

 ……えー、えらいもので、最初の「令和期の作家」であります。
 いえ、まー、令和もすでに3年目に入っておりますから、例えばその間に芥川賞なんかを受賞なさった作家は、我が拙ブログのアバウトな(かなりアバウトな)カテゴリでいえば「令和期の作家」となるわけで、実際この筆者も、冒頭の本作の次の小説で、見事芥川賞作家となりました。

 本作は筆者20歳の作品で、文芸賞を受賞なさったそうですが、まー、20歳でこれだけ書けるというのは、やはりかなりの飛びぬけた才能なんでしょうなー。
 また、デビュー作らしく、いろいろ工夫したかなり気合の入った作品だと思います。

 例えば、読み始めて最初に少し戸惑うのは、この独特の文体、というか、筆者の造語の連なりであります。
 でもこんな文章は、わたくし、むかーしどこかで読んだような気がしましたよ。
 思い出しました。友人の高校の先生に見せてもらった、女子高生の遠足感想文でした。その感想文は、あきれると同時にけっこう面白かったので記憶に残っています。なんか、それにそっくりな感じで、例えば本文のこんな部分。

​ いきなし妙ちきりんな告白から始まってごめんだけど、うーちゃんは体毛を剃るのが下手です。はじめてかかのカミソリあててみたときなんかは、何もつけずにしたせいで当然のごとく肌を傷つけ赤こい線をつくりました。今ではさすがに泡あわ使うし怪我はしんけど、十九歳になったところでむつかしさはかわらんもんよ。​

 わたくし考えてみたのですが、方言というのは否定の形が最も特徴的な気がする、と。
 上記の引用部分で言うと、「怪我はしんけど」「かわらん」という個所などですが、そんな方言についての研究は、きっと専門家が詳しく分析なさってましょうが、何かそんな気がします。
 そして、第三者的に聞く(読む)と、そこが何だか素朴で温かい、と。
 (あともう一つ、方言の方言らしいところは文末のバラエティですかね。ここにも方言の粋が詰まっているように思います。)

 と、まぁ、このような一人称告白文体で最後まで書かれています。
 この文体って、読めばわかりますが、私の読んだ単行本は115ページですが、結構みちみちに中身が詰まってます。

 でも、まー、ちょっといじわるに言えば、こんなことでは脅かされないぞという私のようなすれっからしの読者がいて、要は必然性と「美しさ」であろう、と。

 そんな風に読むと、一読鬼面人を驚かすようなこの文体も、読み進めるほどに驚きも違和感も薄れてきて、やはりちょっと上手だなと思ったりするのは、この文体の奥にある作者のこんな感受性と表現力であります。

​ かかは、ととの浮気したときんことをなんども繰り返し自分のなかでなぞるうちに深い溝にしてしまい、何を考えていてもそこにたどり着くようになっていました。おそらく誰にもあるでしょう、つけられた傷を何度も自分でなぞることでより深く傷つけてしまい、自分ではもうどうにものがれ難い溝をつくってしまうということが、そいしてその溝に針を落としてひきずりだされる一つの音楽を繰り返し聴いては自分のために泣いているということが。​

 少々たどたどしくも縁語がらみでイメージをつないでいくさまが、なんとなくわたくし、がんばっているなという気がします。

 と、そんな文章については「力作」っぽいのですが、さて、全体としての作品の完成度はどんなものなんでしょうか。
 わたくしが勝手に思いますに、やはり、終盤のクライマックスあたりが少し「弱い」のではないか、と。

 冒頭しばらく読み進んだところにこんな一文があります。

 ​みっくん、うーちゃんはね、かかを産みたかった。かかをにんしんしたかったんよ。​

 本作は結局のところ、この一文の説得力という所にテーマがあるように思うのですが、それが、少し弱くないでしょうか、と。
 ラストシーンに向けての終盤に、それが集中的に書かれているようですが、まずここが、少し痩せた感じになっている、と。かなり説明っぽい、と。

 そして、ラストシーン、ここも、……うーん、どうなんでしょうか。
 ちょっと、あっけにとられたのは私の読みそこないでしょうか、ねー。

 でも、次作で芥川賞ですから。
 そういえば、昔、芥川賞受賞作で一気に出来の良くなった女性作家を読んだことがありましたよ。
 樋口一葉なんて人も、「奇跡の一年」みたいな言われ方で、ある年に一気に恐ろしく上手になった方でありましたものね。(念のために少しウィキで調べてみましたら、「奇跡の14ヶ月」というのが正しいそうです。)


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2021.07.18 20:02:43
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