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駆け出し記者の一期一会

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2008年06月23日
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カテゴリ:音楽
高校の合唱祭に行ってから、以前に書いた中学校の合唱のことを思い出して読み返してみた。
今、高校2年の長男が中学3年の時の話で、強く印象に残っているものである。

*************************

 ラドミド ラドミド…イ短調の寂しげなアルペジオに乗せて、物悲しい旋律が流れ出す。
  熱い光の中で 僕は 一枚の絵になった
  熱い風の中で 君は 君はひとつの 石像になった
満席の体育館。ピーンと張りつめた空気の中、3年1組の自由曲「消えた八月」が始まった。
さっきまで続いた1年生の元気のいい歌声や、2年生のきれいな合唱とは明らかに異なる。生徒達の異様な気迫に体育館中がたじろいだ。
  光に打たれて 光に打たれて 僕は僕は 壁にとけた・・・
  風に吹かれて 風に吹かれて 君は君は君は君は 大地に・・・消えた!
早い三連符でピアノが奈落の底へと落ちていく。ああ、なんという曲だろう!
…と突如、生徒達の表情ががらりと変わり、やわらかく明るいメロディになった。
  僕の好きな八月は 蝉と向日葵の夏
  君の好きな八月は 銀河の下 星祭り
無邪気な思い出を心から楽しそうに語ってくれる。そんな日々があったのだ…
  しかし、すべては消えた。
  熱い風と毒された空気の中で
  血の一滴すら流すことなく
  僕は影になった 君は物になった
笑顔は消え去り、沈痛な述懐から絶望のクライマックスへと曲は疾走する。  
  ぼくはかげに、きみはものに ぼくはかげに! きみはものに!
  ふるさとに・・・黒い雨が・・・降る
ぐっと抑えた音量で、悲しい和音がハモった。ぞっと鳥肌が立ち、目に涙が浮かぶ。
  熱い光の中で 僕は一枚の絵になった
  熱い風の中で 君はひとつの石像になった
冒頭の旋律が一層悲しく歌われた後、最後はピアノだけ、低音のラの余韻が残った。
  
聴衆は拍手をしていいものかどうか戸惑った。こんな悲痛な曲が、今だかつて合唱コンクールで歌われたことがあったろうか?
 
合唱コンクールはこの中学校にとって運動会と並ぶ二大行事である。クラス対抗で各学年の最優秀を決めるので、毎年、繰り広げられる熱戦。生徒も担任も必死だ。課題曲と自由曲を1曲ずつ。自由曲にはそれぞれのクラスのカラーが色濃く現われる。夏休み前に曲が決まり、2学期に入って本格的な練習が始まった。本番2週間前からは、朝練に放課後練習に自主練習に、もう合唱コンクール一色だ。
 
3年目なので、そういう雰囲気はわかっていたが、今年の3年1組の取組みは歌の練習だけではなかったのだ。担任が発行するクラス便りには、「原爆について知ろう」のシリーズが「その1」から「その13」まで連載された。担任は、この夏の都大会でベスト8の快挙を成し遂げた野球部の顧問も務める熱血体育教師、40代という年齢は多くの保護者とほぼ同世代である。その先生の推薦があったとは言え、この「消えた8月」を歌うことが決まったのは、生徒たち自身の投票によるものだった。

音楽の授業だけでなく、教室で担任の話を聞き、話し合いを重ねながら練習を積んだ。本番直前、社会の先生が貸してくれた原爆の被害のビデオをみんなで観た。その日、帰宅した息子は相当ショックを受けていた。ビデオを観た直後の練習で、彼らの歌を聴いた担任は、初めて涙を流したそうだ。
 
クラスは、バックグラウンドもさまざまな生徒の集団。近所の子ども達、大きくなったものだ。運動会で綱引きのヒーローだった彼が、貫禄ある低音で歌う。大人びて、斜に構えたあの子が、あんなに真剣に歌っている。不良呼ばわりされ不登校だった彼もいい表情で歌っている。歌が苦手で、音程がなかなかとれない我が息子も懸命に練習した。個性溢れる40人が、クラスでの取組みを通じて一つになり、心に刻み込んだ歌の言葉は、一語一語、聴く者の胸に迫った。
 
審査結果を待つ。最優秀に選ばれたのは、合唱コンクールの定番曲を歌った3組だった。青春の思いを美しく歌い上げる「春に」という曲である。1組は惜しくも1点差で敗れた。
1組の女子生徒達がすすり泣いている。頑張ったのに…。最優秀に選ばれなかった悔しさと、もう中学最後の合唱コンクールが終わってしまった寂しさ…。
 
確かに歌詞のメッセージも大切だが、歌である以上、当然ながら、音程やリズムや和音の美しさが求められる。歌の背景のクラス活動まで知っているのは、クラス便りを読んだ1組の親だけだ。ほかの聴衆は、あくまでも本番の舞台を聴いているのだから。その点、「春に」のクラスのほうが、歌としての完成度が上だったし、「春に」には、何と言っても、安心して聴ける音楽の魅力があった。
 
メッセージを発するのは勇気のいることだ。ただ、それが世の中でなかなかメジャーにならないのも現実である。より多くの人に伝えたいならば、どのような要素が必要なのかを考える必要がある。そこも、今回の教訓だと思う。
 
しかし、それを差し引いても、彼らの歌は聴衆に強い印象を残した。爆心地付近で消え去ってしまい、すべての将来を奪われてしまった少年の魂の叫びが伝わってきた。戦争について学び、人に伝えようとしたことは、間違いなく生徒達の血肉となっている。
週明けのクラス便りに、生徒達の感想が載っている。

「ビデオを見てから、歌うたびにあの映像が頭を横切ります」
「教室に帰ってからの先生の言葉。胸に響きました。私たちの思いが伝わったから泣く人が 
 いたんだってことがわかって、嬉しかったです」
「最優秀賞はとれなかったけど、会場の人達に思いが伝わったというのは成功の証だと思い 
 ます。そのあと、教室で最後の 消えた八月を歌った時、涙で歌えませんでした。
 最初から最後まで泣いてしまって・・・」

中学三年生が、合唱コンクールに反戦歌を選び、全力で臨んだ。昨今、いじめや自殺のニュースが相次ぐ中、そんな取組みを、地域の普通の中学校が実践したということ自体が、世の中に希望を与えてくれる。人間の可能性を信じさせてくれる。
 
親だって「戦争を知らない子ども達」だ。その私達から生まれ、平和な世の中で育った彼らが、
今、大人になろうとしている。「イマドキの中学生は…」なんて言うまい。
真摯な中学生達を誇りに思う。
   
************************

2年ほど前に、ライタースクールの課題として書いた文章なので、あらためて読み返すと
かなり気恥ずかしいものの、今でも冒頭の「あついー」を思い浮かべただけで涙が出てくる。
それほど強烈なインパクトのある合唱だった。

中学時代というのは、年齢的に中途半端で大人の関わり方も微妙である。無邪気な小学生(低学年)のように、大人の言うことを聞かせるわけにはいかず、かと言って、すべてを自主性に委ねるには未熟すぎる。そういう難しい年頃の子ども達をその気にさせて引っ張っていった先生には敬服したのだった。しかも、音楽の先生ではない。体育会系の野球部顧問の名物熱血教師である。

ちなみに、この先生、今年は次男の担任なのだ。
そろそろ秋の合唱コンクールの選曲に入っているらしいが、クラスの大多数の生徒が、
優勝定番曲の一つである「COSOMOS」を歌いたいと言っているところ、
先生としては、「それはそれでいいと思うけれど」と前置きしつつ、
クラス便りの中で、また別の反戦歌を紹介している。よっぽどのこだわりなんでしょうね。。
生徒達と担任のやりとりの中で、どういう選択になっていくのか、
高校生とはまた違った展開に興味をそそられる。

いずれにしても、この中学校の合唱コンクールも、例年のごとく、大いに盛り上がることだろう。

なぜ、下手な中学生の歌がうまいプロより心を動かすことがあるのか?
なぜ、イマドキの中学生がこんなに熱心に歌うのか?
こういう歌を歌ってイマドキの中学生たちは何を思うのか?
なぜ、人は歌を歌うのか?
なぜ、人の声は人の心を動かすのか?

そんなことを考えながら、
その場では、きっとまたハンカチ3枚分ほど泣いてしまうに違いない。






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最終更新日  2008年06月24日 03時15分26秒
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