174675 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

朝吹龍一朗の目・眼・芽

朝吹龍一朗の目・眼・芽

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Category

Freepage List

Profile

tonobon

tonobon

Archives

2024.06
2024.05
2024.04
2024.03
2024.02
2024.01
2023.12
2023.11
2023.10
2023.09

Comments

tonobon@ Re:尾瀬(07/28) ★さすけさん >緑が気持ち良さそうですね…
★さすけ@ 尾瀬 どうもはじめまして。 緑が気持ち良さそ…
tonobon@ 居庸関長城 *Izumi*さん コメントありがとうございま…

Calendar

Favorite Blog

ちょっと本を作って… 秦野の隠居さん

Keyword Search

▼キーワード検索

Headline News

2009.01.10
XML
カテゴリ:幽霊

   幽霊     第4回 前半

選択。はて、そういえば自分から進んで何かを選び取ったことが果たして今までにあっただろうか。高校も、大学も、会社だって、誰かがいいと勧めてくれたから何となく選んでしまったのではなかったか。急いで付け加えておくが、それで後悔したという意味ではない。結果としての選択はすべて少なくとも間違いではなかったと思っている。しかしそこに森之宮自身の自由意志はあったか。

 右前に座ったのはぱっちりした目の下にそばかすが浮き、頬をほんのり赤くした金髪のきれいなジャンヌだった。時折隣のドミニックとフランス語で話しているので、たぶんワロニーだ。でも森之宮はなぜか中学校の英語の教科書に出てきたスージーを思い出してしまった。パスだな。生徒会長になってからラブレターを出した同級生のあだ名がスージーだった。見事に振られたんだった。

 左側はドミニックだ。二人ともベルギーの南半分の地域、フランス語圏でもあるワロン地方出身のようで、しきりにフランス語で話している。相当露骨な中身で、日本人の身体的な特徴をしきりにあげつらっている。一行4人は全員メガネだし、河野課長は少し出っ歯だ。常田部長ははげかかっている。その上森之宮はカメラを持っていたのだから、確かに4人合わせて典型的な日本人集団だったかもしれない。ただ、ドミニックはワロン系にしては珍しく、背が180センチくらいあり、まるでオランダ系(フレミッシュ)のようだ。手の指も腕もほっそりして華奢なつくり、真っ白な肌なのだがアルコールのせいか露出している部分はほとんどがピンク色に染まっている。長いまつげと薄い唇が印象的な美人だ。それにさっきからしゃべっているフランス語からは英語と共通の語彙が除外されている。英語しかできない日本人にわからないように、注意深く、巧妙に言い換えられている。この二人はただものではない。

 馬鹿話を英語でしながら二人を見ていたのだが、同じようにかわるがわるみている視線が二つある。常田部長と河野課長だ。意識的に目を合わせてみた。いいなあ、英語ができるだけでモテモテなんて、うらやましい限りだ、というような中身のことを、ゆっくりと、まるでわざとやっているように聞こえるほど聞き取りにくくしゃべったあと、常田部長は言葉のスピード同様のゆっくりした動作で椅子からずり落ちそうになった。

 加藤さんがすぐに手をのばして抱きかかえた。尋常ではない身のこなしだった。同じ会社とはいえ、文科系出身の加藤さんのことは、今回の出張までほとんど知らないままだった。続いて肩を入れながら二人で常田さんを元通り椅子に収めると、図ったように河野さんもゆらゆら揺れ始めた。

 早く決めてくれないと二人とも陥落するよ、と加藤さんが言うが、常田河野のお二人はきっとうろ覚えにでもこの晩のことを思い出すに違いなく、そのとき森之宮の行動が面白おかしく語られる可能性が高いことに思い当った。
「どっちもパスします。すいません、ご好意なのに」
 森之宮が言うと、加藤さんは苦笑しながら理解してくれた。

 外は札幌の10月よりもっと寒いくらいの気温だった。風はないのでその分体感温度は低くないのだろうが、それでも寒がりの森之宮には結構ぴりぴり来る。しかし酔っ払い2人は却って目が覚めたようで、おい、加藤、T大剣士、同期は同じ会社に入らないんだってな、俺はザッカー、サッカーじゃないぞ、ザーッカー部だ。などと大声でわめき散らす。ホテルが近くてよかった。グラン・プラスを斜めに横切って、結局その晩はそれでも12時過ぎにはベッドにもぐりこむことができた。完全に酔いつぶれているお二人の部屋には7時にモーニングコールを頼むことを忘れない加藤さんが剣道部出身で、インカレにも出たという実力者であり、今でも素早い身のこなしと先読みのセンスを保っておられることに恐れ入った。文科系出身者のすごさを垣間見た気がした。

 

人気blogランキング投票よろしく 今日はどのへん?。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.01.10 12:31:42
コメント(0) | コメントを書く
[幽霊] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.