カテゴリ:連載小説
家事の一部をロボットに分担させてから、アリサには自由にできる時間が増えた。そのため必然的に、アリサと翔太が一緒に過ごす時間が長くなった。 「翔太さん、この前借りていた本返しますね。」 「おう、どうだった?」 「どの話も面白かったです。そうだったんだぁって唸らせるような仕掛けがしてあって。」 「やっぱりこの作家は短編が上手いよね。驚くような工夫がされていて、その上感動させられてしまう。」 「一番好きなのは、二番目に載ってる話です。最後の一行が凄くいいですね。」 「あの、『僕は、そう信じている。』ってやつね。」 最近アリサは、翔太の好きなものに興味を持ち始めた。音楽とか、小説とか。よく翔太の部屋に来ては、翔太から本を借りたり、翔太と一緒に音楽を聴いたりしていた。 「また、何か良い本貸してくれませんか?最近だんだん読むペースも速くなってきたんですよ。」 「おう。どれが良いかな。」 アリサは、データ化された文章は一瞬で記憶することができるのにも関わらず、小説を一文字一文字目で追って読んでいる。 読みながら記憶するのはデータを保存するのとは違い、意味を理解しながら文字を読み進めていくことで、自分の心でいろいろなことを感じ取ることができる。 本をデータとして記録するのではなく、読むということにより、アリサは感受性を高めているのだった。 翔太は自分の蔵書の中から、アリサに合いそうな本を探した。といっても、前までならある程度意味のわかりやすい本を選んでいたが、今ではアリサは、普通の人と同じように本を読めるようになった。 「これなんかどうだろう。」 翔太は本棚から、少し前に読んだ青春ものの本を取り出した。 「けっこう感動させられるんだよ。」 「ありがとう御座います。お借りしますね。」 翔太から本を受け取り部屋を出て行くアリサを見ながら、翔太は自分に言い聞かせた。 アリサはロボットだ。人間に近いし、人間と何ら変わりは無いけれど、ロボットだと。 話をするということに関しては、アリサはもう普通の人間と何ら変わり無かった。知識が豊富で、観察力も高いため、翔太の良い話相手となっていた。 最近、翔太はそんなアリサと話をしていて、アリサがロボットだということを忘れる瞬間があった。 アリサはロボットとは言っても、実際にはほとんど人間と変わらなくなってきているので、それでも何の問題も無いはずであった。 しかし、翔太は、時々彼女がロボットであるということを自分自身に言い聞かせた。 そうやって繰返し自分に言い聞かせなくては、アリサがロボットだということを忘れてしまいそうな気がする。 翔太は、なぜかそのことが怖かったのだ。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年03月14日 18時31分48秒
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