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2005年03月18日
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カテゴリ:連載小説
<7>

「こっちおいでー。エサですよー。」

 アリサが池の淵にしゃがんでカモにエサをあげようとしているが、カモはアリサを怖がって少しも近づいては来ない。

「翔太さーん。どうしてですかね。カモが全然寄ってきません。」
 アリサは少し離れたベンチに腰掛けている翔太に向かって、少し不機嫌そうに言った。
「そりゃあ怖いよなあ。」
「私ってそんなに怖いですか・・。」
 翔太は聞こえないだろうと思うような小さな声で呟いたが、アリサの耳は人間よりもずっと良いのだ。
「いや、まあカモにとったらね。ほら、アリサは動く音が少し大きいから。」
 これから悪口を言う時なんかはもっと気をつけようと、翔太は思った。

 翔太とアリサは、近所の公園に来ていた。以前から翔太の父親に、もっとアリサに外の世界を見せてやるようにと言われていたし、アリサ本人もいろいろなところに出かけたいと言っていた。
 その上こんなに天気が良くて温かい日とあっては、外に出ない理由は無かった。

「じっとしてたらカモも寄って来るんじゃないかな。」
「わかりました。やってみます。」
 アリサは翔太に言われたとおりにじっとして、カモが来るのを待ち構えた。
 そうなるとアリサは、まったく生き物とは思えないほど微動だにしなくなる。それはそれで見てるこっちは怖いものがあるが、カモはそんなアリサをただの物だと認識しているようで、気がつかずに近づいてきた。

 アリサと同じように、翔太も息を潜めてその様子を窺っていた。アリサはカモを十分に引き付け、ここぞという瞬間に手に持っていたエサを撒いた。
 しかし、アリサが動き出した瞬間にカモは驚いて飛び立ってしまった。

「あははは、残念でしたー。」
 思わず笑ってしまった翔太の方に、アリサが歩いてきた。
「もう、カモはいいです。」
 アリサは思いっきり不機嫌そうな顔をしていた。
「何だよ、アリサ。怒ってるのか?」
「怒ってません。」
 怒ってるじゃないか。翔太は、今度は絶対に聞こえないように声には出さず、心の中で思った。
 こんな風に不機嫌になったりすることは、アリサが初めて見せる感情かもしれない。翔太は、そんなアリサの新しい一面を見ることを楽しく感じていた。

「じゃ、あっちにある遊具とかの方に行ってみようか。」
 ふてくされた様子のアリサの気分を変えるために、翔太は公園の遊具のある方を指さした。


つづく





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最終更新日  2005年03月18日 16時00分37秒
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