カテゴリ:着ぐるみを考える
いままでフルオーダーだけだったシグマが量産+オプションのエナを手がけ、イルカは原型から選ばせるスタイルをやめてからそれぞれ1年以上経った。かつては互いに逆の生産方法をとった訳だが、ビジネスとしてはどちらがうまくいったのだろう?
たびたびイベントに登場する新作が着ぐるみファンをにぎわせる両工房だが、制作方針や作品の傾向はかなり異なっている。イルカ工房のちきま氏は元々同人誌作家であり、工房は彼の描くオリジナルのキャラクターを着ぐるみ化するというものだ。同人誌と同様に、着ぐるみを通して自分のキャラクターが演じるストーリーを表現のメインに置いていた。そのため、かなり長期に渡りオリジナルキャラだけを販売し続け、いわゆる版権ものにはほとんど手をつけずにいた。現在までにちきま氏のオリジナルキャラクターマスクは百数十体が作られ内外のユーザーが所有している。 それに対しシグマはきっかけこそセーラームーンかもしれないが、特定のキャラクターに限定せず多種多様なアニメキャラ、ゲームキャラを手掛けて来た。また早くから衣裳と頭髪を外注する事により、造形者の負担が減り、結果的に不得意分野を減らすことに繋がった。 ユーザーから見たかつての(2001年頃)工房の印象は シグマはかなり高いしすごく時間も掛かるが、どんなキャラでも作ってくれる。しかも髪の毛の仕上げはプロ仕様だし、衣裳は専門サークルによるもの。ただしタイツは光沢レオタードで、海外発送はしない。 イルカはカタログに掲載されている娘にピンと来たらそれを買え。他より早いし安いうえに眼や髪の色などは多少アレンジできる。しかも海外発送が可能。ただし衣裳は無く、タイツはオマケ程度。 だったと思うのだが、作り方が逆転した現在はどうなっているのだろうか? 様々なバリエーションのキャラクターを手がけてきたシグマの作品は、そのすべてがHPに掲載されている訳ではなく、また「どの面も原作によく似ていて可愛い」とは限らないが、顔自体の造りや表情がすべて控え目で、パーツが出しゃばらない。これはかつてのキャラショウタイプの面とは逆のアプローチで、至近距離で見ても威圧感のないおとなしい表情になっているのだ。どちらかと言えばインドア撮影、屋外ならアップで表情を撮るような用途に向いている。確かにユーザーのHPなどをみるかぎり「多くの少女着ぐるみファンの趣向」をつかむことに成功しており、「シグマ作風」のファンは多い。そして現在のシグマ作風の集大成がエナである。エナはシグマファンに向けた直球ど真ん中の商品なのだ。 イルカの場合はどうだろう?自分のキャラではなく、アニメキャラを手がけるということは今までの作風を残したままではアニメファンの要求を満たせないこともあるだろうし、自分の作風を封印してまで他人の顔を作ることは漫画家に取っては大きなストレスにならないだろうか。そして自分の作風を封印するということは、従来のイルカキャラファンからすればちょっと寂しいことなのだ。 つまりキャラクターという縛りから開放されてある意味気楽に作れるようになったエナと、新たに条件が加わったイルカの版権キャラ制作はまたもや全く別の方向を向いているため、表面的なことで比較は出来ない。シグマのエナは工房として安定志向であり、ユーザーフレンドリーだ。それに対しイルカは造形者としての挑戦であるがゆえに商売として成立するかどうか(キャラ、似せ方、納期、価格などに於いて)は疑問が残る。もっとも、着ぐるみ制作を商売にしないという選択肢もあるだろうが、そうはいかないのだろう。 次回はアマチュア向け着ぐるみ制作という商売について再度考察する。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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