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カテゴリ:本
藤沢周平による江戸が舞台の捕物小説。
推理小説としてトリックがロジックがどうこうという内容ではないが、 市井で起きた殺人事件を淡々と、しかし随所にサスペンス絡めながら、かつくどくならない程に江戸情緒を感じさせて読ませるのはこの作者ならではの技量だと思う。 本編以上に上手いと思えたのは関川夏央による、ハードボイルド とは何かを、 江戸情緒がハードボイルドとは相容れないのではないかという作者の懸念に答えるように、 ずばり言い当てている卓見の解説だった。 誤解を恐れず要約すると ハードボイルドとは、人生の苦さを知る人物を描くもので、非常なキャラクターを主人公にした超人小説ではない。 それより何より、ハードボイルドは大都市の小説である。 江戸こそ封建制が生み出した近世まれに見る世界的大都市であり、都市があれば犯罪がある。 大都市とは見知らぬ者同士の集合体であり、探偵役は見ず知らずの人物に接触し事件の手がかりを探す。 その過程がハードボイルド小説の骨格となる。 なるほど、大都市ごとにその都市の特性を生かしたハードボイルド小説が誕生しても不思議はないと妙に納得して 「男は強くなければ生きていかれない、優しくなければ生きていく資格がない」 この有名過ぎる言葉をすぐ思い浮かべた。 .もと岡っ引きで今は彫師、訳ありの過去を持つ主人公伊之助はまさにそんな人物として造型されている。 もう一つの藤沢捕物帖「風の果て」も読んでみたいと思ったが、何より久しぶりでロス・マクドナルドが読みたくなった。 この秋はリュウ・アーチャーやコンチネンタル・オプに再会したい。フィリップ・マーロウも忘れずに。 そんな気分になった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.10.18 19:13:09
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