過去完了
SMクラブのHPから、やっと私の顔写真が消えた。・・・なんか遠い昔みたい。いや、ねえ、まだやめてから数ヶ月しかたってないはずだけど、・・・私、よくやってなぁ・・・てゆーかよくやる気になったよなぁ・・・と、まるで他人事のように振り返ってしまったりもする。でも、私は相方に出会わなかったら、こんな予備校の仕事はやめて、東京に移って、表向きは派遣かなんかの仕事でもしながら、SMクラブで稼ぐつもりだった。もしかしたら、今ごろ、そうしていたかもしれない。店長にも、そうするように、強く誘われていた。「仕事やめて、今すぐ東京に引越しておいでよ。アヅミちゃんは、其処に一生いようと思うわけじゃないんでしょ。その仕事を一生続けていこうと思ってるわけじゃないんだったら、其処からここへ新幹線で通うのは、金銭的にも体力的にもしんどいし無駄だよ。話を聞いてると、別にその会社は社員を大切にしてるわけでもなさそうだし。SMの仕事を平日にももっと増やして、そちらの方が儲かるし、まあでも今みたいにこの仕事は週1にして、ちゃんとした昼の仕事をしたいのなら、それを探せばいいし。アヅミちゃんなら東京でも職はいろいろあるでしょう。」毎週のようにそう言われ、・・・私はけっこう揺らいでいた。店長の誘いを本気にしていたわけではないが、・・・というか、東京に住んだら住んだで、いつでも店長に会えるから、ちょっち面倒くさいかなとも思ったけど、、、(まあ、一応、従順な奴隷なわけですけど・・・わけないっ・・・)でも、東京で暮らしてみてもいいかな、という思いもあった。芝居も観にいけるし、、、住むならシモキタあたりに住みたいな・・・。・・・いろいろ・・・まだまだ・・・未知の可能性を試してみたい。まだ私にはなにかあるかもしれない。ないかもしれないけどあるかもしれない。なんてキモチもあった。なんというか冒険心。今しかやれないことをやりたい。私のぽっかりあいたままの心を埋めるために。なにかを、やろう。とにかく、こんなとこでいつまでもくすぶってるのは嫌だと。なんかそんなわけのわからない焦りがあった。・・・その原因は、一概にはいえないけど、大学時代の彼氏・・・というか・・・全然彼氏でもないんだけど、なんかつきあってるのかいないのか曖昧なままダラダラ、コイツはやるだけやりたいんかいみたいな、・・・いやまあそうでもないのかもだけど、、、ちゃんと彼氏と呼べる前に別れたような、でもまあ私にそれなりに影響を及ぼしたオトコが、東京で、芝居に出たりコントに参加してたり、そんな生活をしていたからかもしれない。大学を卒業してブラブラしてるという噂の彼だったけど、私が好きだった劇団の演出家(かなり有名)の公演にその人が出ているのを知った時は、・・・なんか、、、別にいいんだけど、別にいいと思ってたけど、「悔しい」という感情とはちょっと違うけど、私はこんなとこで何をしてるんだろう、と・・・なんか猛烈な焦りを感じた。芝居や映像・・・クリエイティブ系の世界。私は、そういう世界を知れば知るほど、自分はどこまでも才能のない凡人なんだと気付かされ、とことん凹まされる。でも、私のまわりはそれなりに非凡人系というか、、、不発も含め「なんかやりそうな人」というか、一風変わった人が多かったから、彼もそのうちの一人だったけど・・・そんな中にいて、私は大学時代から自分のあまりの凡人さを嘆き、諦めながら、でも諦めきれない焦りを常に内に宿していた。凡人だからこそ、私は普通に、そう、今のように、会社で正社員として働く、そんな社会的な顔をちゃんと持っていなきゃいけないと思う反面、・・・「サラリーマン・OLは私には似合わない、格好悪い」というような、大学時代からつきまとっていた意識がまだどこかにあり、いや、それは私だけじゃなく、私の大学時代の仲間の風潮がそうだっただけ、私は単にそれに影響を受けすぎていただけなのかもしれないけど、「やりたいことをやってます」みたいな・・・そんな自由人・芸術人っぽさに、憧れていた。「ちゃんとした社会人生活を送り収入を得る方がいいんだ、普通が一番偉いんだ、バイトしながら芝居なんて、甘いんだよ」と思いながら、そうできない自分がなんか歯がゆかったりもした。私もなんかやりたい・・・と。とりあえず、それは、東京だった。今の停滞している現状を切り開いていけそうな気がしたのだ。動かなければ何も始まらない・・・と。惰性だけで今の仕事を続けている、そんな人生は嫌だ、と。一人で東京で暮らすのは寂しいし家賃も高くてもったいないから、誰かとルームシェアをしようと思ってた。できればゲイの人がよかった。いっしょに暮らしててなんか気楽そうだったし面白そうだし。たまに連れて行ってもらってた銀座のSMバーにもゲイの人がいたし、まあそこで見つからなくてもネットでルームシェアできそうな人を探そうなんて、けっこう本気で考えていた。表向きは派遣の仕事でもしながら、SMクラブで働く日数を増やそうと思った。そうすれば、今の倍以上の収入になる。金が溜まれば、可能性も広がる。また放浪の旅に出るもよし、芝居をもう一度するもよし、とある資格(今取ろうとしている資格)をとるために専門学校にいってもいいし、院にいってもいいなと思ってた。あの頃、私は、なんだかんだで、自分の人生を他人事のように面白がってた。だってSM嬢なんて、ありえないじゃん、はっはっは、みたいな。人生ゲームでもするように楽しんでた。ギリギリのゲーム。行き詰まったら、もう一度リセット、スタートに戻る、それでもどうにもどうしようもなくなればゲームオーバー、さよなら人生、別に死んでもいいやと思ってた。んー。