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テーマ:ショートショート。(1084)
カテゴリ:小説
ああ。
また、あの闇だ。 気がつくと、深い淵を覗き込むように俺は立っている。 陽光にあふれる春の空の一点に 「それ」は現れる。 気が狂って死ぬことの苦しみは、あの闇を見たものにしかわかるまい。 だが。 その間に俺は食ってしゃべって、足元のごみを拾って捨てたりしている。 闇が俺を吸い込もうと背後に待ち構えている。 そいつに身を任せれば楽なのは知っている。 でも、俺はそうしない。 闇の「名」を、知っているから。 「名を知る」というのは大事なことだ。 そのものの本質を抑えることだ。 そいつを抑えているからこそ、俺は次に進むことができる。 抗うことは苦しい。 射抜かれるように苦しい。 「そんなものの存在すら、気づかずに通り過ぎる人生のほうがよかったな。」 これは俺の正直な感想ではあるが。 闇を見て、光を見て、叙述するレトリックを持ってしまったものは、喰われるまで戦い続けるのが宿命なのに違いない。 そんな美しさを知ってしまった者は。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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