中井久夫 私の日本語雑記
私が一番尊敬する臨床家、精神科医である中井久夫先生の、日本語をめぐるエッセイ。タイトルの通り、中井先生という「私」が「日本語」をさまざまな角度から縦横無尽に語られた「雑記」。ただし、これは、半端に書き散らかしたという意味での「雑記」では全然全くない。朝日の書評で斎藤環(彼自身たいへん優秀な臨床精神科医である)は「体系だった思想が示されるわけではない」とかなり/著しく的はずれなことを述べているが、臨床実践家の「体系的思想ないし理論」は思弁的思想家のそれとは異なることくらい斉藤が知らないわけではあるまい。またこの書評を斉藤が、いわゆる「中井伝説」から書き出したことにも違和感を覚える。中井自身が書いた文章をフォローしている者にとって「天才伝説エピソード」は、中井自身が事実を書いていたり、神田橋が語っていたりすることくらい周知のことだ。事実と異なる歪曲をそのまま書かれ垂れ流すのはいかがなものか。これは中井にとっても斉藤にとっても不幸なことだ。―斉藤は、ただ単に中井の書物の書評依頼を受け、はしゃいでいるだけなのではないか?ここで中井が語っているのは優秀な臨床実践精神科医による「臨床実践体系に基づいた思想」である。ただ、岩波の依頼で書かれた中井の文章は、大変痛々しく苦しそうだ。執筆時、中井が呻吟している姿が見てとれる。本書しかり、岩波講座「精神の科学」中井執筆部分しかり。「精神の科学」執筆時、中井は初めて、いわゆる「缶詰め」を体験したと記憶している。「私にとって、空前(絶後でありたい)」と記していたのではなかったか?敢えて言うが、それでもなお読むべき書物である。朝日の書評は、斎藤環ではなく神田橋條治に書いて欲しかったと切に思う。人気blogランキングへ私の日本語雑記価格:2,100円(税込、送料別)