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![]() ☆仕掛け蔵・藤井邦夫 ・日溜り官兵衛 極意帖シリーズ第2弾 ・双葉社 ・2014年5月18日 第1刷発行 第1話 仕掛け蔵 眠り猫の勘兵衛=錏(しころ)勘兵衛。盗賊。根岸の里の黒猫庵に住む。 故買屋吉五郎(こばいやきちごろう)=小料理屋『桜や』の隠居、勘兵衛の手下。 丈吉=船頭、吉五郎の手下。 仙蔵=百獣屋(ももんじや)、昔から吉五郎の世話になっている。 おせい=口入屋『恵比寿屋』の女主。吉五郎の手伝いをすしている。 大口屋喜左衛門=蔵前の札差 大口屋。 弁天の五郎蔵=どんな金蔵でも破って金を盗み出す、犯さず殺さずの本道を行く盗賊 根岸の里、時雨の岡に建つ黒猫庵。縁側の日溜りには勘兵衛が柱に寄りかかって転た寝をしていた。垣根の外に人影が過ぎり、木戸に故買屋吉五郎が現れた。 縁側に腰掛けた吉五郎がいうには、江戸でも五本の指に入る蔵前の札差大口屋が、近頃どんな盗賊にも破られない金蔵を作ったと、札差仲間に自慢しているという。 その噂を聞いた盗賊、弁天の五郎蔵が押し入った。2人の手下と共にまんまと内蔵まで忍び込んだが、板の間の床が3人の重さに軋み僅かに沈んだ。次ぎの瞬間、三寸角の格子戸が音を立てて落ちて来た。退路を断たれた五郎蔵たちは金蔵を前にしてあえなくお縄になった。大口屋の主人喜左衛門は、札差仲間に五郎蔵捕縛の顛末を面白可笑しく話し、金蔵を自慢しているらしい。 吉五郎からその話を聞いた眠り猫の勘兵衛は「札差大口屋の自慢の金蔵、破ってやるぜ・・・」と言い放った。喜左衛門に恨みはないが盗っ人としての意地があり、このまま捨てては置けない。大口屋の金蔵を破る理由は、金よりも盗人の馬鹿な意地だという。 勘兵衛は大口屋の内情を吉五郎に探らせた。大口屋を見張っていた吉五郎は、大口屋には付け入る隙が無く面倒な金蔵破りになりそうだという。そこで勘兵衛は、金蔵作りを請け負った大工に狙いを定めた。木陰から大工『大政』の普請場を眺めた勘兵衛は、若い大工の良吉に目をつけた。さて、どうやって吐かせるか・・・。 普請場の片付けを終え道具箱を担いでの帰り道、女の悲鳴に足をとめた良吉の背に、居酒屋から飛び出してきた酌婦が隠れた。立ち竦む良吉に酌婦を追ってきた2人の浪人が斬りつけた。尾行ていた勘兵衛が飛び出し、1人を蹴飛ばし、斬り掛かってきた浪人の刀を腕とともに斬り飛ばし追い払った。幸い良吉の傷は浅手で、勘兵衛に送られて帰る道すがら、勘兵衛に気を許した良吉は、問わず語りに自分は金蔵の戸口の天井に吊るす牢屋の格子戸を作ったことがあると話した。忍び込んだ奴を閉じ込めるためで、この前忍び込んだ盗賊がお縄になったと話した。勘兵衛は格子戸が落ちる仕掛けと他に仕掛けがないことを、まんまと聞き出した。 五郎蔵と2人の手下は、小伝馬町の土壇場で首を斬られ獄門台に晒された。やがて、大口屋の押し込みの一件は盗賊・弁天の五郎蔵たちの仕置と共に人々の噂に余り上らなくなった。もう少しだ…。勘兵衛は奉公人たちの気が緩んでくるのを待った。忍び込むのは勘兵衛一人。まんまと金蔵に忍び込んだ勘兵衛は、4個の切り餅(百両)を皮袋に入れて腰に結び付け、眠り猫の絵が描かれた千社札を残した。そして、仕掛けのある戸口の前の床を蹴り、転がり出た。刹那、格子戸が音を鳴らして天井から滑り落ちた・・・。夜空に呼子笛が鳴り響くころ、勘兵衛と見張りの丈吉は既に屋形船の中にいた。 三寸角の格子戸を引き上げ、内蔵に踏み込んだ北町奉行所の同心たちと喜左衛門は戸惑った。金蔵の中には、眠り猫の絵の描かれた千社札だけが残されていたのだ。 「眠り猫……」喜左衛門は言葉を失い、同心たちは、盗賊・眠り猫が金蔵を破ったのを知った。 *札差 旗本・御家人の代理として俸禄の蔵米を受け取り、売り捌きの事務を行なって手数料を取り、その米を担保に金を貸すのを生業にする商人。その名の謂れは、蔵米受取手形である“札”に受取人の名を記して割竹に挟んで蔵役所の藁苞(わらずと)に差した処からきていた。享保のときに、百九人と定められ、旗本御家人の便宜を図った。 第2話 札付き *札付き 親が素行の悪い子を勘当する者の候補として名主に届け、人別帳に札を付けておくことを云った。そして親は“札付き”にした者が悪事を働いた時、即座に勘当して縁を切る。勘当された者は、、人別帳から外されて良民としての分限を失い、原籍のない無宿者とされる。(本文より抜粋) 第3話 拐かす(かどわかす) 盗人だった亭主が、おしののお勤めの邪魔になるからと、我が子を勝手に養子に出してしまった。喜助は老舗の大店「秀泉堂」の養子となっていた。下働きから奥向きの女中として喜助のお守り役を任されるようになったおしのは、盗賊に拐かされた喜助を命がけで守った。養い親に大切にされていることを知ったおしのは、我が子の幸せを思い「秀泉堂」から去っていった。 第4話 妖怪の首 2人の若い武士が高家の1つ六角寿翁の武家籠の一行に斬り込んだが、供侍に返り討ちにあって死んだ。その内の1人、村上真之介は駆けつけた勘兵衛に袱紗包みを託した。真之介は1ヶ月前に六角寿翁のために家を取り潰され切腹した旗本五千石の阿部采正の家来であった。六角寿翁は配下の探索組織を使い、大名旗本の弱みを握り強請っていたのだ。 勘兵衛は「正体は質の悪い強請りたかり汚い悪党に過ぎぬ。屋敷に押し込み、薄汚い悪党の首と一緒に上前を撥ねる」と云い放った。 高家・六角寿翁の醜い首は、日本橋の高札場に晒され、それを見た世間の人々は嘲笑った。公儀は、六角寿翁の死を闇に葬ったが、人の口に戸は立てられず、噂は江戸の町に広がり続けた。 *八丁堀=八丁に渡って開鑿された掘割のこと *高家=公儀の儀式、典礼、朝廷への使節などを司る役職。室町以来の26の名家があり、六角の他にも、吉良、大沢、武田、畠山、大友などがある。 藤井邦夫(ふじいくにお) 1946年北海道旭川生れ。テレビドラマの脚本家、監督を経て、2002年に作家デビュー、以降、時代小説で数々のシリーズを手がける。主な人気シリーズに、「日溜り勘兵衛 極意帖」「知らぬが半兵衛手控え帖」「乾蔵人 隠密秘録」「評定所書役・柊左門 裏仕置」「秋山久蔵御用控」「養生所見廻り同心 神代新吾事件覚」「素浪人稼業」「結城半蔵事件始末」などがある。 (カバー裏記載より) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.01.08 19:51:37
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