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カテゴリ:読後感あれこれ
■内容紹介■ 私小説を書き続け、「人をさんざん傷つけて来た」作家が、 「少しは謝罪したいという虫のいい気持」から四国巡礼の旅に出たのだった 一昨年は客船で世界1周を成し遂げた作家が今度は四国お遍路へと、 妻で詩人の高橋順子氏と旅立った。 作家は35年間、私小説を書き、「身の回りの多くの人々をさんざん傷つけて来たので、 いまさら極楽へ行きたいという風なことは考えないのだが、生きている間に少しは謝罪したい という虫のいい気持ちがあって」徒歩での巡礼を決意したのだった。 淡々とした記述の中に作家ならではの人生に対する感慨や、ふと湧き出る回想、 旅で出会った人々への人間観察が溢れる。 (文藝春秋社HPより) 久々の新刊なので書店へ走る。 八王子の事件があってから、書店へ行くのがなんだか億劫になっていたが、 買うべき本があれば別だ。 しばらく積んでおいて眺めていようと思ったが、翌日には一気に読んでしまう。 著者らしい、巡礼記だった。 多少控えめにはなっているが、毒舌・辛辣・エゴが溢れていなければ車谷ではない。 お腹が弱いらしく、道中何度もしゃがみこんで大をすることまでも、 逐一行動を記さねば我が巡礼記ではないとばかりに、辟易するほど描かれる。 それに耐えることが巡礼たる所以であると言うようだ。 歩きながら自分の人生を回想し、常に10年先まで執筆予定表は出来ていると言う。 しかし私小説は已めて、「赤目四十八瀧心中未遂」のような小説を書きたいらしい。 その言や良し。愛読者として待っている。 妻と2人で歩いているのだが、足を痛めた妻は途中からバスでの移動が多く、 それを気遣いながらの情愛も毒舌の中に伝えてやまない。 私小説を中断したのも妻への愛がさせたのではなかろうかと想像する・・・。 著者らしい描写に出会うと、車谷健在と嬉しくなり、 “小説を書きだしてから直木賞をもらうまで4時間以上寝たことが無い”と読めば、 作家の業苦が身に沁みるようで、しんとなる。 が、著者の言葉によれば虚実皮膜の間を書くのが文学であるらしいから、 この道中のしぶとい排便のことも、睡眠時間のことも、他者への辛辣なまなざしも何も 100%鵜呑みにするわけにはいかないのだ。 されど帯文の “極楽へ往生したい、という欲望それ自体が悪である。 地獄へ行ってもいい、と覚悟することこそが大事である” 悟りのようなフレーズが、 ・・・これだって虚実皮膜のうちにゃあらん~と思いつつ、 (いつ死んでも悔いの無いように日々過ごす)と願う、私の信条にピタリきた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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