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カテゴリ:文芸
![]() 1969年4月23日に発生した「高校生による同級生殺害事件」の取材を開始。 その原稿は、月刊『文藝春秋』1997年12月号に掲載されました。 事件や加害者の医療少年院送致までについては、当時の新聞報道や友人の証言、 裁判記録、精神鑑定書等から、その様子を知ることが出来たものの、 その後については、被害者家族ですら調べる術はありませんでした。 加害者にまつわる「なぜ」をいくら追っても虚しさが漂うだけと感じた著者は、 被害者遺族がその後の人生をどれだけ苦しみながら生きてきたかを 詳らかにする方が大事なのではないかと思い立ち、本格的に取材を始めます。 そのため、本著の大半は被害者家族のその後を描くことに費やされ、 それらは、被害者の母親や妹を中心に、関係者が著者に語った言葉をもとにしたものです。 「心にナイフをしのばせて」いたのも、加害者ではなく妹さんです。 被害者家族の内情を、ここまで世間に晒す意義があるのかと思いつつ読み進めましたが、 それでも、終盤に差し掛かると、弁護士となった加害者が登場、 その想像を絶する振る舞いに、開いた口が塞がらない場面が積み重なっていきます。 「この本は被害者側の取材が大半を占めていて、 加害者側の取材が充分になされていないのはおかしい。 作品として不完全ではないか」(p.302) これは、「文庫版あとがき 異常心理は理解できるのか」に記されている 著者がある高名な方から間接的に言われたという言葉です。 それでも、本著の出版が、平成16年の「犯罪被害者等基本法」の制定や 次の妹さんの言葉へと繋がっていったのなら、価値はあったのだと私は思いました。 ただわたしの記憶も曖昧だ。 自ら確かめるために、わたしはその方と一緒に親戚や兄の友人たちを訪ね歩いた。 関係者から話をうかがうにつれ、 わたしがきらっていた母のイメージが変化しはじめた。 そして、母の生き方が実に人間らしく見えるようになった。(p.286) 御子柴礼司には、この事件の加害者とは違う振る舞いを期待したいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.12.20 18:11:51
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