ココロの森

仏教という宗教が大事なのではない。
そうではなく、人間がどのようにこの世界を、いまの時代を生きていけばいいのか、
という教えとして大事なのだ。
ブッダが最初に人々に語った教えは、そういうものだったに違いない。

世界にはさまざまな宗教が存在し、それぞれの教義がある。
しかし人間同士はその異なる宗教の壁を越えて、手を取り合わなければならない。
仏教というものは、
そのような宗教間の対立というものを寛容という精神でやわらげ、結びつける
一つの橋になる可能性を秘めている。

また、それには他力（たりき）という思想の広がりでもあってほしいと、
私は願っている。
他力は、神や仏の存在を信じるものも、あるいは信じないものも、
目に見えない世界を認める者も、また認めない者も、
世界中の民族や国籍を超えて、
二十一世紀に生きる私たちの闇を照らすエネルギーを秘めているのではないか。
私たちが無意識に求めているものではないのか。





本書の最後で、五木氏はこう述べている。



　　　



以前の日記で、私は

「仏教の教えはもっともだと思うし、とても心にしっくりとくるけれど
　ではあなたは仏教徒なのか、と問われたら、そうではないような気がする」
　
というようなことを書いた覚えがあるのだけれど
その思いは、仏教をより深く知れば知るほど、益々強くなる。



お釈迦様のおっしゃっていることは真実だと思うし
お寺めぐりも大好きだし、仏像を見れば手を合わせる。

でも、お釈迦様は「人間」だ。
何千年か前に、確かにこの世に存在した人間なのだ。


彼は神様ではない。宗教家でもない。
修行をして、さとりをひらいたけれど
天からお告げを聞いた訳ではなく
ましてや、修行の末に自分が神になったなどど
とんでもない勘違いしたわけでもない。


苦行の末に、ようやくたどり着いた人生の真理、四諦（※）を
ひとりでも多くの人に説き、
人生に悩み苦しんでいる人々を救いたい、
ただその一心で法を説いてまわったのではないだろうか。



※四諦とは・・・

苦諦（くたい：人生は苦であるという真理）
集諦（じったい：苦の原因に関する真理）
滅諦（めったい：苦をなくし悟りにいたる真理）
道諦（どうたい：悟りに至る修行法の真理）





お金や、恋愛や、親子関係や、友情や仕事で悩む人々を、
また万人が避けられない病や死の恐怖などから
ひとりでも多くの人を解放してあげたかった。

「親切心」「思いやり」「哀れみ」「慈しみ」

ただ、それだけで。


自分がたどり着いた真実を後世に残し、
後々の人々をも迷いから救いたい、

ただ、それだけで。



そこに、一神教のような絶対性や
これを崇めれば必ず救われる、といったようなものはなかったはずだ。



「仏教」をはじめ、各種宗教は、
神の存在云々の真偽はさて置き、
元々、人間が作り出したものだ。

人間が作り出したもので
人間同士がいがみ合い、傷つけ合う。

それこそ「神」の怒りに触れることだろう。





その緩和のためにも
「仏教」ではなく「ブッダの教え」が必要なのだと
私は思う。

本書にも書かれていたことだけれども
「改宗」や「仏教徒になること」をすすめるのではく
深い思いやりや、慈しみ、共存の心など
「ブッダの教え」を意識した生き方をこころがけるだけで
世の中は確実に変わっていくであろうからだ。





本書の内容の殆どは
五木氏の『TARIKI』という著書の宣伝かと思うような内容なので
あまりオススメはしないが
最後の方に書かれたこの部分だけは、いたく共感できた。

自力だけではどうにもならない
他力の存在を認め、意識していくことで
世の中も、そして自分自身も
「あるべきすがた」に変わっていくと思う。

確実に。








『21世紀仏教への旅』全6巻
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