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2009.05.28
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【内容情報】(「BOOK」データベースより)

三人姉妹、新しい神話の誕生。
静謐な秋の湖にとどろく雷鳴。魂の成熟と再生、思寵の美しさ!

男は水際の砂場に立っていた。
風はないのに水際にはひっそりと漣が寄せている。
異常なほど透明な水。
だが湖の表面は両側の山陰部分だけを除いて、一面赤っぽい黄色に、
ほとんど金色に染まっている。
その光のきらめきの中に、女は後姿だけ見せていた。
肩の広い長身の後姿が、影絵のように水から浮き出している。
女がいまここに連れてきてくれたことよりも、
前もって話さなかったことに、そしていまも黙って離れていることに、
男は女の配慮を、
彼女もこの世のものならぬこの光景を大切に思っていることを感じた。
魂が不意に真空に晒される思いだ。
知覚だけが異様に冴えて、
感情の領域より一段下、普段は静まり返っている体の芯に近い暗い領域が
ひとりでに疼いて、自然に体が内側から開いてくる。




この紹介文の後半は本文中の引用。
このようなデータベースで、本文をそのまま引かねばならぬほど、
日野氏の世界は独特です。

著書に度々見られる<こちら側>から<あちら側>への世界の移行や
神や魂、霊などの、誰も正確には言い表すことのできない、
見えないけれども確かにそこにあるものの存在に登場人物たちが触れ、
それによって「完全に」現実の何かが変わってしまう、というのは
池澤夏樹氏の作品にも通じるところがあるけれど、
一方で、池澤氏の作品とは全く異種なものでもあります。


見えない世界を描くからといって
昨今流行りの「スピリチュアル」系の物語では全くないです。
それどころか、神や霊の存在をこれだけリアルに物語ながら
それらを真っ向から否定してみせます。
日野氏の描く世界は、常にすぐそこに存在するかのような「現実」そのもの。
だが、もちろんリアリズム主義というわけでもなく
ロマンティックなファンタジーでもなく、
オドロオドロしいオカルティズムでもない。

「日野啓三の世界」としか言い表せない 独特の世界。

その作家、その人にしか描けない世界を創り上げる人こそ
本当の意味で「作家」と言えるのではないだろうかと、私は思うし、
そういう作家に、私は惹かれます。





あらすじは、簡単に言ってしまえば
山奥にある湖畔の民宿に滞在する数名の泊まり客と、
その宿を経営している、ちょっと風変わりな一家との
数日間の交流の物語。

そこに風が吹き、雷が落ち、それぞれの「何か」が変わる。

それだけの物語が、こんなにも美しく、奥深い。





恐ろしいほどに澄んだ湖、赤い岩肌、
立ち枯れた白い樹の林。
そのほとりの一軒宿が舞台となる。

森と湖の番人とよばれる、無口で頑固な老人。
若くして何かを悟ったような料理人の主人。
自身の美貌を弄びつつ燻った気持ちを抱えるその妻。
身なりもかまわず人を避け、屋根裏で隠遁生活をおくる妻の姉。
歳のはなれた、美しく快活な女子高生の妹。

神経質そうな若い女と横柄で子供じみた若い男のカップル。
地元の国語教師と、彼に宿までの案内を頼んだ新聞の校正記者。
そして、元戦場ジャーナリストの寡黙な男。

その、場と、人と、時と、天と、地の綾。




<※ 以下、ネタバレありNG
 ネタバレしたくないかたは、青字部分を読み飛ばして下さい>




 山奥の、取り残されたようにひっそりとした湖畔の一軒宿。
 家長である老人は、湖の浮き橋から入水自殺した妻の亡霊に囚われている。
 老人には、歳の離れた3人の娘がおり、
 長女は過去の失恋による火傷と心の傷から長く心を閉ざしている。
 次女は民宿の女主人だが、
 幼い頃から自分に思いを寄せる国語教師に思わせぶりな態度を示し、
 末の娘は幼くして母親と死に別れながらも、母譲りの美貌と快活さが魅力的だ。

 食事の最中、ふと目をあわせた長女と元戦場記者の男は
 互いに胸の奥底に抱え込む孤独を瞬時に見てとり、急速に距離を縮めて行く。
 彼に心惹かれつつあった次女は、ヤケになって国語教師を呼び出す。
 若い女客は、観光開発業者を一喝した老人の声に魅了され、 
 老人はその女に亡き妻の若き日の面影を見る。

 雷鳴轟くあるひの午後、自室から湖を見ていた三女は
 ボート乗り場の浮き橋をふらふらと歩いて行く客の若い女と
 それを後ろからおいかけ、抱きしめ、共に水中に落ちる父の姿を目撃する。
 





語り手が段落ごとに代わり、それぞれの視点で独白のように物語は進みます。
中核になるような大きなストーリーやエピソードはないのですが
それぞれの物語で語られる、語り手それぞれの魂の傷と
それを必死で、ほんとうに必死で自己治癒してきた、その過程が印象的です。
 ( ※ 詳細は別室参照 )

特に印象的なのは、やはり心を閉ざしていた長女と戦場記者との恋。 

月あかりの中、家族すら入れたことのない仕事場の中で、
ずっと隠し続けていた肉の引き攣れた左手を差し出す長女に、
何も言わず、心の傷を重ね合わせた男。

それだけでも大きな変化なのですが、
それに続く翌日の落雷のシーンは
二人の、特に長女の、運命の転換を象徴的に表していて
前日のロマンティックな情景とは裏腹の、
暴力的ともいえる過去との決別が
前半の、静かな林のシーンと相対的でした。 




とにかく、抜き書きしたい印象的な一文が随所にありました。

私の文章力では、この魅力を伝えられないのが残念です。






私に小説を書く筆の力はないけれど、
もし、書ける力が天から授けられるのであれば
こんな世界を描きたい。。。


佐々木丸美さん、池澤夏樹さんに続いて
そう思える作家です。















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最終更新日  2009.05.29 23:28:50
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