ココロの森

【内容情報】（「BOOK」データベースより）

熊になろうとした少年イキリの魂の彷徨。
池澤夏樹が紡ぐ、大人のための創作童話。







「大人のための創作童話」とありますが
大人も子供も読める絵本です。


長編小説「静かな大地」の中で描かれた創作民話を
何度も改稿し絵本として独立させたもの。

【内容情報】（「BOOK」データベースより）
明治初年、淡路島から北海道の静内に入植した宗形三郎と四郎。
牧場を開いた宗形兄弟と、アイヌの人々の努力と敗退、繁栄と没落をえがく壮大な叙事詩。
著者自身の先祖の物語であり、同時に日本の近代が捨てた価値観を複眼でみつめる、
構想１０年の歴史小説。第３回親鸞賞受賞作。




舞台は北海道。
トゥムンチ族の少年・イキリが主人公です。

北の大地の民であるアイヌは
熊を獲った後、熊に感謝し、その魂を神の国に送るのが習わしですが
トゥムンチには、そんな気持ちは欠片もありません。
自分たちの力を誇示し、殺された熊をバカにし、
穫った子熊は残飯をやりながら苛めぬいて育て、大きくなったら殺す。
そんな一族の中で育てられたイキリは、それが当たり前と思って育ちますが
小熊の世話をしていたある日、
あまりにも惨めなその風体に奇妙な感情を覚えます。
それはトゥムンチたちの言葉には無い「かわいそう」という感情でした。

そして成長したイキリが熊狩りに出たとき、
熊に襲われ大人たちが皆殺されてしまいます。
ひとり助かったイキリは、２匹の子熊と一緒に育てられ、
イキリ自身もいつの間にか熊の子になりました。

やがて熊になったイキリは、トゥムンチの矢に撃たれます。
矢を抜くと、イキリは人間の姿に戻りますが
相変わらずトゥムンチたちは自然や獲物に感謝することの無い生活をおくっており、
いたたまれなくなったイキリは村を飛び出してしまいます。

そしてイキリは・・・






ラストは、未来の暗示のような気がしました。






力を誇示し、もの言わぬものを愚かだと決めつけることの愚かさ。

小さき物たちが、自らの運命を受け入れることの潔さと気高さ。




そして、めぐる「命」について。



深く考えさせられる絵本です。





そして「読む前に」という序章で著者が書いている通り



　できれば声に出して読んでいただきたい。
　そして確かめていただきたい。
　これを読む自分はトゥムンチではないと。



そう、誇りを持って言える人間でありたいと思いました。







著者も翻訳した名作「星の王子様」のように
何度も読み返したくなる一冊。



傲慢な現代人に一石を投じる、静かな掌編でした。