カテゴリ:読書のココロ(エッセイ・その他)
【内容情報】(「BOOK」データベースより) ひとり暮らしは、食べたいときに食べたいものを作って。 四季折々の、身近で大切な、「食」の習慣と記憶たち…最新エッセイ集。 【目次】 ドレちゃん/春ポンポン/彼岸列車/花見おちこち/豆と白球/青菜惜春/ のり修業/すしと勤労婦人/わらびとり/来客用トマト〔ほか〕 杉浦日向子さんの『ごくらくちんみ』に並ぶ 「おなかのすく本」。 空腹時に読んではいけません、腹が鳴ります(笑) 「ごくらくちんみ」は掌編小説だったけれど こちらは掌編エッセイ。 丁寧で簡潔な日本語で書かれた、なんともいえぬ趣きと つつましく丁寧な、食と暮らしの姿勢に好感がもてます。 作者が私と同年代ということで 駄菓子屋やおままごとの描写など 昭和の空気漂う回想が多々登場するのも でも、なんといっても食の描写が秀逸。 * * * * * ……もう、冷やし中華は食べましたか。 なにごとかと思ったら。のんびりたずねられて、あごの力がはずれた。 まだですと答えると、ぼくはもう食べました、それでは。電話は切れた。 夏帽子のかげの、得意げな鼻さきが浮かぶ。 車の音は遠くすぼまり、くやしいあまりに腹が鳴る。 気がつけば口から胃袋まで、からっぽだった。 ちらかったあたまに、小山がひと皿、ぽんとある。 つめたい麺の滝がある。 きゅうりのみどり、錦糸のたまご、あかいハムのふち。 山もみじは、すそのまでしきつめられている。 てっぺんでもえているのは、紅しょうがだった。 鼻のつけねにからしと酢じょうゆを浮かべ、つんと肩をすくめ、がまぐちをにぎる。 つっかけをはき、昼どきのしっぽをつかまえに出た。 ( 本書「ごあいさつ」 より ) * * * * * もう、最後の二行なんか身悶えしてしまうほど巧い。 私好みの文章だ。 「昼どきのしっぽをつかまえに出た」 なんでこんなにうまく表現できるんだろうかとため息が出てしまう。 筆者独特の、とつとつとした口調と 会話のシーンでも「 」(かぎかっこ)を使用せず あくまでも「マイペース」で綴られる文章は そのままお人柄があらわれているよう。 石田さんの作品はこれが初読みだったのですが もっと読んでみたいと思える作家さんでした お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.03.04 22:48:44
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