ココロの森

【内容情報】（「BOOK」データベースより）

「でも、さっきそうおっしゃったじゃねぇか！」　

町には、偶然生まれては消えてゆく無数の詩が溢れている。
不合理でナンセンスで真剣で可笑しい、天使的な言葉たちについての考察。
『ちくま』掲載を書籍化。





この紹介文にも登場するインパクティな雄叫び。
あまりにインパクティなので表紙にも書いてある。

いったい何がどうなってこんな言葉が湧いて来たのかというと
とある旅行代理店でのこと。

わがまま放題無理難題のお客のリクエストを何とか聞き入れて
代理店のひと（ほむほむの知人）が日程プランを作った。

それをそのお客に提示したところ、ダメだしをくらった。
どこがどうダメなのかというと
そのお客がこうしたい、ああしたいと言った我が儘全てである。

きっと短い日程にあれこれプランを詰め込みすぎて
「マリンスポーツ　1時間」とか、全然楽しめないカツカツプランになったのだろう。
でも、そうしたいっっていうから無理にプランをかえたのに。
屈辱のダメだし。


ほむほむの知人は、ぐっっっっと堪えた。
頑張った。

でも、それを後ろで聞いていた後輩が
あまりの客の横暴ぶりに堪えかねて言い放ったのが

「でも、さっきそうおっしゃったじゃねぇか！」

という、「天使的言葉」である。



お客様だから丁寧な言葉で、、、という責任感。
でもこの横暴を許すわけには、、、という正義感。
困っている先輩を助けたい、という優しさ。

いろんな思いが一気に沸点に達して吹き出した結果の産物。

いくら頭のいい人が「おもしろいことを言ってやろう」と考えても
決して思いつかないような
偶発的かつナチュラルかつ、なにか、大事な本質を備えていそうな言葉。
メチャクチャでデタラメだからこそ、ただのデタラメではない一言。


そんな巷にあふれた、ただの石ころのようなことばを
己の感性で磨きに磨いて
短歌というきらめく宝石にしているほむほむが考える
「天使的言葉」についての考察のあれこれ。




いろんなインパクティな言葉があったけど
私の一番はこれ。








　*　*　*　*　*



数年前のこと、私はAさんという知人の女性と挨拶を交わした。

ほ「お久しぶり、お元気ですか」
A「堕胎しました」

世界は凍らなかったが、私は凍った。
知人と云っても、私とAさんと逢うのは二度目なのだ。



　　　　（　「世界を凍らせる言葉」より　）



　*　*　*　*　*




ビックリを通り越して唖然というか目が点というか
ほむほむじゃなくても誰でも凍ると思う。

なんなの、この切り返し。

あなたとこれ以上会話をしたくない、ということ？？？
それならばこれ以上の決め玉はないともいえる。







笑える話では、ほむほむが引越した際の「わが町」というのがいい。






　*　*　*　*　*




引越しを決めたあとで、友人のひとりから（中略）
「なんでわざわざそんなところに」と云われたくらいだ。

「そんなところ」がどんなところかというと、
例えば先日、新しく店ができたのに気づいて近づくと、
入り口付近にこんな貼り紙があった。

「昼から飲めます」

うむ、と思って、そっと立ち去る。
（中略）
そのあとで立ち寄ったアジアンな雑貨屋さんでは、
ご主人らしき年配の男性に話しかけられた。


「今日は本当にお天気もよくて、最高のサタデーですね」




　　　　　　　　（　「わが町」より　）



　*　*　*　*　*




素晴らしい。
この二言だけで、どんな町なのか想像がつく。

下手に細かい情景描写をただ延々と書く割に
脳内に何にも風景が立ち上がって来ないような昨今の作家陣には
ぜひともこのような感性を培っていただきたいものだ。


私も日々言の葉の欠片を磨きこみに精進しようと改めて思った。



言葉に限らず
宝石や天使たちは
どこか遠くにあるわけではなく
きっとすぐ傍にあるのだ。

ただ、私たちが気がつかないだけで。