カテゴリ:読書のココロ(エッセイ・その他)
思い出の詰まった絵本こそ、ぼくの本当の宝物 歌人にして、数々のエッセイでも知られる穂村弘が、 秘蔵の絵本たちを、思いを込めて語ります。 戦前のレトロな絵本から最近の作品まで オールカラーでビジュアル豊かに紹介・解説した月刊MOE連載の大人気コラムが一冊の本になりました。 【内容情報】(「BOOK」データベースより) 国内外の名作絵本、約70冊をオールカラーで解説・収録。 「絵本やきれいな紙モノを見たり買ったり」するのが、 「ごちゃごちゃと複雑な苦しみに充ちた現実から逃げ」る方法というほむほむ。 紹介されている絵本の多くが 挿絵やストーリーのうつくしさ、教育性、示唆性に富むといったものではなく 意味や脈略がなかったり、極端にシュールだったり、オノマトペが秀逸だったり、といった 「ことば」に焦点を当てたものであるのがいかにも歌人のセレクトといった感。 私は、幼少期に本を読み聴かせてくれる人が身近にいなかったせいか とりあげられている絵本の殆どがしらないものばかりだったのだけれど 唯一、はっきりと「これはおぼえている!」と思ったものがあった。 この絵本と出会ったときの衝撃は今思い返してもぞくっとするほど。
真っ暗闇のなかにきらりとひかるふたつの目。 「よなかに あそぶこは おばけにおなり」 「おばけの せかいへ とんでいけ」 「おばけになって とんでいけ」 で子供がお化けになって家から飛んでいって終わり、という ぶっちぎりのエンディング。 今の時代なら、きっと 「夜更かしはいけない」という「教育的配慮」の範疇外として 「『【子供にみせるものとしては問題がある】と親が考える』と編集長が判断する」 であろうテキスト。 教育的範疇を超えるおそろしさ故の、素晴らしさ。 だからこそ、こうしていまも私のココロの奥底に しっかりと思い出が焼き付いている。 本書のなかで同じくらいのインパクトがあったのは 「かがくのとも」通巻23号掲載という 谷川俊太郎氏/作・粟津潔/絵「まるのおうさま」だ。
サイケデリックな赤の背景に両目の付いた白いお皿が描かれている。 おさらの台詞はふきだしになっていて、そこの部分は山吹色だ。 おさらはおもった ぼくはなんてまるいんだろう ぼくはせかいいちまるいんだ ぼくこそまるのおうさまだ おさらはむねをはった そして、その見開きのすぐとなりのページは、こうだ。 がちゃん そのとたん たなから ころげおちて・・・・こなごな 絵は勿論、こなごなになったお皿である。 絵本はさらに続く それをみて しんばるが おおわらい きのうはまるいが きょうはこなごな! まるのおうさまは やっぱりおれだ ・・・なんという残酷物語!!! でも子供ってかなり残酷な生き物だから こういう絵本の方が、きっと 「みんななかよし」的な物語よりも好きだろうな、 と容易に想像できる。 いくつか紹介されていた本のなかでも 私の感性にびびっとくるのは谷川氏のものがおおくて、 やっぱり 谷川氏は天才だ、 と改めて思ってみたりも。 最近は、ドラマでも小説でも 絵本のようなワクワク感のある「ワンダーワールド」よりも なんだか強い刺激を求めるだけの「ワンダー」がもてはやされている。 殺人事件の思いもよらないトリックとか 奇想天外な設定や発想とか、 笑わせよう、泣かせよう、とする設定が最初から見え見えで それに向かって「これでもか」と事件を振りかけていくとか。 そんな仕組まれた『ワンダー』なんか ちっとも『ワンダー』じゃない、と思ってしまうのは きっと 私だけではないはずだ。 絵本をひらくと なんだかほっとするのは そんなたくらみとは無縁の世界が 華麗に奇抜に、私たちの狭い世界を超えてゆくからかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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