昔から、 編集者は縁の下の力持ちであるとか、 黒子としての役割を担っていると言われてきました。 最近は編集者自身も表舞台に出てくるようなことが見られるようにもなりましたが、 まだまだそのような例は少ないような気がします。
そんなこともあって、その本を担当した編集者の顔や名前が表立って出てくることはほとんどないわけですが、 著者のご好意で、 前書きや後書きの中に謝辞として担当の編集者の名前が記されることはよくあります。 これは皆さんも一度は目にしたことがあるのではないかと思います。
編集者にとっては、担当した本の中に自分の名前が記されることは嬉しいものです。 特に、それが編集者になって初めてのことであれば、なおさらです。 私が初めてその経験をさせて頂いたのは入社して1年半くらい経ったときだったと思います。 まだまだ未熟な私でしたが、その著者の方は序文の最後のところに、 メインで担当した先輩編集者の名前と一緒に、 私の名前も入れて下さりました。
序文の校正は先輩の編集者がしていたために、そこに自分の名前が載っていることを知ったのは青焼きのチェックをする段階になってからでした。「自分の名前がある!」 というあのときの感激はいまだに忘れられません。
編集者のくせにと笑われてしまいそうですが、このときは まるで自分の書いた本が発売されるような気持ちになってしまい、本が刊行になると同時に、その本を1冊、自分の両親に贈ったことを覚えています。(田舎に住む私の両親は、よほど嬉しかったのか、その本を隣近所に見せに回ったとか。 嬉しいような恥ずかしいような ・・・。)
悲しいかな、 最近は当時のような感激に浸ることは少なくなってしまったのですが、 それでも、 著者の方が謝辞として編集者の名前を入れて下さることに対しては常に感謝の心を忘れていません。
本は時代を超えて残っていくものであり、編集者にとっては数多くの本の中の一冊に過ぎなくてもその著者にとっては生涯で唯一の本になるかもしれません。 だからこそ、編集者は担当する一冊一冊すべてについて、全力で当たらなければなりません。
こうした思いが著者にも伝わり、 結果として、 本の中に自分の名前を入れて頂けることになったならば、これほど嬉しいことはありません。 そして、その本が多くの読者に支持されたならば、編集者として最高の気分です。