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カテゴリ:茶木の音楽紀行
そして定年まで教師をやったが、その30年ちょっとの年月がとても平坦で穏やかな生
活だったように感じられてしまう。 もちろんいろいろあったんだが今私の人生を振り返ると、20代のあの戦地での日々 に凝縮されているんだ。 「私たちには想像も出来ない酷い思い出だとしても、でもそれがおじいさんのたった 一度の青春の日々だったのね」と言ってプー子は彼の横顔を見つめたまま微笑んだ。 もちろん僕たちは初めて目にする彼女の笑顔だったが、それは聖母マリアのような優 しい笑顔だった。 彼は黙ってプー子の目を見た。 「今日はなんだか不思議な日だな、どうして君たちは私の身の上話なんかそんなに真 剣に聞くんだ? 学校の授業でついそんな私の経験を話しても皆眠っているし、家で私の子供たちに話 すと「また始まった」と言うように顔を顰める。 皆自分たちには全く関係の無い惨たらしいだけの遠い世界の話だと感じるんだろうが 、でもそれはすべて本当にあったことなんだ。 やらされたにしても私はこの手でおびただしい人々を殺めて来た。 そんな私が教壇の上でいったい何を他人に教える事が出来ると言うのだ! 体験した事をそのまま話して、皆の仲で其々考えてもらうしかない。 今まで何度も挑戦したが一度としてうまく行かなかったのに君たちはじっと耳を傾け ている。 なぜだ?」 「分かりません」と柴田が答えた。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.12.02 09:25:08
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