大阪CA声楽コンセルヴァトワール

「でも、今の僕たちとは全く違う時代背景の中で同じ年代の人たちがどんな思いをし
てどんな事を体験して生きていたかと言う事にとても興味があるんです。」と言って
柴田は我々のコップにウイスキーを注いだ。
「しかし残念だが戦争はまたいつか始まるだろう、人間とはそう言う生き物なんだ。
」と言っておじいさんは持っているコップの中のウイスキーをじっと見た。
「今のこの世界からは想像出来ないですね、それに皆そんな愚かな事をすればどうな
るか分かっている。」と僕が口を挟んだ。
おじいさんは黙ってウイスキーを一口飲んだ。
「人間の中にはあるスイッチがあってね、何かの拍子に皆のスイッチが連鎖反応のよ
うに一斉に入ってしまう現象がおこることがある。
そうなると悪魔に取り付かれ命令を受けたように他人を殺し始める。」
「そのスイッチって何ですか」とぼくが尋ねた。
「欲だよ、名誉欲、自己顕示欲、それに付随する金銭欲、そういった物だ、元々我々
生き物を拵えたやつがそんなスイッチを植え付けたんだ。」
「私たちを拵えたやつって、神様とか？」とプー子が首を少し傾げて尋ねた。
「さー！神様なんて善人じゃないかもしれない。
とにかくそのスイッチを入らないようにするのが教育だが、それも利かなくなる時が
来る。
今までの人間の歴史を見てごらん、戦争と平和をずっと繰り返している。
全く愚かな動物だ！二度と立ち上がれないほどの悲しみから死にもの狂いで這い上が
って来てもまたそれを忘れて好んで深い谷底に落ちる。」
「なんとか僕たちの時代でその歴史に終止符を打つ事は出来ないんですか？」と僕は
尋ねた。
「んー！それは私にも分からないが、学校の中でもいい、教会や寺の中でもいい、人
を強い力で引きつけ、泉のように湧き出て来る生きる力を与えてくれ、人間が本来歩
むべき正しい、そして新しい生き方へと導いてくれる教え、もしもそう言ったものが
存在するなら、何かが変わるかもしれない。」
「そしてそれがビジネスではない教え！」と僕が言い、「その通りだ！」と彼が笑っ
た。　　つづく