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2016.12.17
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【宮本輝/錦繍】
20161217

元夫婦が年を経てお互いの生き様を認め合うプロセス
私は幼いころより手紙を書くのが大好きだった。
学生時代には、雑誌の文通コーナーで知り合った相手と長らく文通もしていた。
今思えば内容なんてつまらないものだ。
ひいきにしているミュージシャンの話とか、映画の批評とか、くだらない芸能情報などをつらつらと飽きもせず書いていたに過ぎない。
あのころはパソコンもスマホもない時代なので、友だちと連絡を取る手段といえば、自宅の固定電話の他に、交換日記をしたり、手紙のやりとりをすることであり、それは決して珍しいことではなかった。
大人になってからも、私は文通を続けていた。
四十代も半ばになった今となっては、さすがにそれも叶わなくなってしまったが、、、

宮本輝の『錦繍』は、元夫婦だった男女が、年を経て偶然出くわし、手紙のやりとりが始まるという書簡体の体裁を取る小説である。
リアルの世界ではここまで細かくはつづらないであろうと思われる内容も、手紙という形で表現されている。
読んでいるうちに「これはもしや復縁する展開か?」と推理するのだが、見事にはずれた。
ラストはハッピーエンドではない。
宮本輝がこの小説で一体何を表現したかったのか?
私は私なりに考えてみたが、いつものようにしたり顔では言えないのが残念。

話の流れは次のとおり。
亜紀は、脳性麻痺の8歳の息子をつれて、蔵王に旅行に出かけたところ、元夫である靖明とばったり出くわす。
それは十数年ぶりの再会で、あまりにも偶然で意外すぎて、お互いろくに会話することもなく別れる。
亜紀はすでに再婚し、一児をもうけながらも、靖明のことが忘れられず、人づてに住所を聞き、長い手紙を出すことにした。
二人の離婚の原因は、靖明の浮気と心中騒ぎであった。
靖明は、中学2年のときから想いを寄せていた女とねんごろな関係になったところ、女はだんだん靖明に本気になっていった。
一方、靖明の方は女を愛する気持ちに変わりはないが、家庭を壊す気はなく、不倫関係を続けていく気でいた。
そんなある日、二人はいつもの逢引き宿で逢瀬を楽しんだあと、女が寝ている靖明に斬りつけ、女自身も自らを突き刺し、自殺するのだった。
このとき女は死に、靖明は一命を取り留めた。
結局、そのことが原因で亜紀と靖明は別れることになった。
亜紀は、靖明への未練からなかなか立ち直れないでいたが、父の勧めもあり、大学の助教授をしている男と再婚することとなった。
そしてその男との間にできたのが脳性麻痺の息子・清高であった。
一方、靖明にも長らく同棲している女がいた。
地味だが愛嬌があり、ろくに働かない靖明によく尽す女であった。
靖明は亜紀から届く長い手紙を読んで、自分の心境を語ることにした。
その返事もまた長いものとなるのだった。

作中、靖明が中学2年生のとき両親を亡くしたことで、舞鶴に住む親戚に引き取られる場面が出て来る。
この舞鶴という地は、京都の北端にあり、日本海に面した町なのだが、驚くほど的を射た表現である。

「初めて東舞鶴の駅に降り立った際の、心が縮んでいくような烈しい寂寥感です。東舞鶴は、私には不思議な暗さと淋しさを持つ町に見えました。冷たい潮風の漂う、うらぶれた辺境の地に思えたのでした」

私はこの舞鶴にほんの数カ月もの間、住んでいたことがある。
あのときの私の気持ちを代弁するかのような表現で、たまらなくなって泣きそうになった。
三島由紀夫の『金閣寺』にも東舞鶴の場面が出て来るが、太平洋側に住む者にとって、ちょっと形容しがたい物哀しさを感じるのである。

『錦繍』を読むと、どんな辛い目にあおうとも、生きていることが重要なのだと気づかせてくれる。
ある意味、死ぬことも生きることも大差ないのだとも言える。
ただ、人間はつまらないことで道を踏み外すけれども、なんとかなるものだと思わせるくだりもあり、勇気づけられる。
過去を振り返ってばかりでは前に進めない。
今を大事にし、未来への一歩を踏み出すことの大切さを教えてくれる。
・・・これは当たり障りのない大雑把な感想だが、本当はもっと違うところに意味があるのかもしれない。
読者を選ぶ小説である。

『錦繍』宮本輝・著



★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから
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最終更新日  2016.12.17 07:54:12
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