カテゴリ:シェフの雑記帳
フォアグラというのはいつごろからあったかというと、意外にも歴史は古く古代ローマ時代には食べられていました。つまり2000年以上前からあるんですね。博物誌を書いた古代ローマ時代の大学者プリニウスの著書に干しイチジクを与えて肥育したガチョウのフォアグラとそれを蜂蜜入りの牛乳に漬けこんで作る料理の話がもう載っているんです。 その後ローマ帝国が衰退するにつれて、一度は廃れとくに中世のヨーロッパの暗黒時代にはほぼ完全に廃れたようです。その後ルネサンス期には復活してきました。もちろんイタリアでのことです。その頃のフランスはヨーロッパの中では後進国でしたから、フランスにはフォアグラは無かったと思います。 ルネサンス期にフランス王アンリ二世が、当時世界最先端の文化と世界最高の富を誇ったフィレンツェのメジチ家からカトリーヌをお嫁にもらったことで、田舎だったフランスに豊かな食文化が伝わりました。なにしろ当時のフランスでは王様でも手づかみで料理を食べていたんです。右手にナイフを持ち、大きな肉料理から肉を切り取って左手で口に放り込んでいたんです。カトリーヌ姫が、嫁入り道具にもってきた食器(この時初めてフランス人にフォークが伝わった)や伴ってきた宮廷料理人が、現在に続くフランス料理の源流になります。今では世界最高の食文化みたいに威張っているフランス料理も16世紀ころはまだまだたいしたことなかったんです。フォアグラもその頃入って来たんだと思います。 古来以来ずーっと長い間フォアグラ造りの主役はガチョウです。前回も書きましたが、鴨のフォアグラが多くなってくるのは、1980年代からです。(ミュラールという品種が開発された話は前回書きましたね) コロンブスがアメリカを発見してから新大陸からもたらされたトウモロコシが救荒作物として17世紀にはすっかり栽培が定着して、フォアグラの製造にも利用されるようになり生産量が増えました。現在ではフォアグラが年間2万6千トンあまり生産されています。普通サイズの前菜にしたら、5億皿分くらいですか、、、。そのうちフランスの生産量が1万8千トンあまりで、圧倒的に多いです。2位のハンガリーで2500トンくらいですから、フランスがダントツです。 近年は動物愛護の観点から、飼育を禁止したり販売や輸入を禁止したりする国が増えています。徹底しているのはアメリカのカリホルニア州で、飼育輸入販売(レストランでの提供も含む)が一切禁止です。ヨーロッパでもイタリア、オーストリアの6州、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、ポーランド、ルクセンブル、アイルランド、イギリス、スウェーデン、オランダ、スイスなどでは、生産ができなくなっているようです。フォアグラ発祥の地イタリアでも禁止なんですね。他にも高品質のフォアグラを生産していたイスラエルも飼育を禁止しましたし、上にあげた国に属する多くの航空会社の機内食からも姿を消しています。昔はファーストクラスに乗ったらキャビアやフォアグラが食べ放題というイメージでしたが、、、。まあ、世界的に見てフォアグラには逆風が風いていると言っていいかもしれませんね。 そんな中、フランス国民議会は2004年だか2005年ころにフランス食文化の保護という観点で、フォアグラ生産を続けることを全会一致で決議しています。鴨やガチョウの強制肥育は、動物虐待に当たるかもしれないが他にフォアグラを作る方法がない以上いたしかたないという事になっています。フランス強いですね!(笑)全会一致というところが凄すぎますよね!まあ、そのおかげでサンク・オ・ピエの人気メニューも続けていられるんですけどね、、、。 動物愛護というのも、なかなか複雑な問題でして色々政治的な面や経済的な問題や宗教的問題などが複雑にかかわりあっているので、なかなか個人的な見解は述べにくいのですが、すべての動物が、草食動物にしろ肉食動物にしろ雑食性の人類も含めて、何らかの形で他の生き物の命をいただいて生きているわけです。そういう事から考えると、動物虐待に関する線の引き方に関しては非常に難しく微妙な問題と言わざるをえませんね。食に限らず、ペットのことや実験動物のことなども考えると、ますます難しくなります。たとえ純粋な菜食主義者であっても、植物だって生き物ですからね。他の命をいただくことに変わりはないと思います。 まあ、なにを食べるにしても他の生き物の命をいただいて自分の命をつないでいるという事は、忘れてはならないでしょうね。食前に「いただきます」というのは、食物となった生き物にその命をいただきますと言う事からきているのですから、仏教的な思想が少しはあるのかもしれませんが、八百万の神々を信仰した日本古来の美しい言葉だと思います。(つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 27, 2013 02:51:31 PM
|
|