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テーマ:今日見た舞台(965)
カテゴリ:映画・演劇
近鉄劇場・小劇場が閉鎖してから、大阪で「演劇をやってる所」というものが失われてしまった。
もちろん、実際には、場所を変えて多くの劇団は、上演活動を続けてはいるのだが、 「小屋」「場所」の大切さ、そして、失うことの大きさを思い知らされたのは、 加藤健一事務所大阪公演「コミック・ポテンシャル」だった。 場所は、大阪市内(近鉄劇場のあった上本町)から電車で13分かからないほどの隣接市 「八尾(やお)」の公営ホール「プリズムホール」の小ホール。390人ほどのホールである。 八尾市が運営するこのホール、ただ場所を貸しただけでなく、 今回、八尾市が招聘もしたそうで、 もし八尾市がが今回、加藤健一事務所を招聘しなかったら、 「コミック・ポテンシャル」は、大阪では上演されなかったことになる。 (もし、「取り合い」になったのなら、また別だが) 大阪は、阪神優勝の前の今から3年前の近鉄優勝フィーバー(優勝間際には太田知事が球場にも出向いてファンを名乗った)と 今回の売却に対する反応(在阪の1企業も買取や募金すら呼びかけもしない)を見ても判るように、 案外、保守的で弱ってるもの危ないものを助けたり金を出すことは余り好まず、 長いものに巻かれて、諦めもよく、勝ち組にのるのが好き…という面がある。 (まあ、日本中ほぼどこでもかもしれないが、大阪は、イメージとのギャップがひどいという意味で) そんなワケで、大阪では、演劇にせよ、クラシックにせよ、 「大阪公演があるか?」ということは、かなり、薄氷を踏む思いで見つめないといけないということになる。 その意味で、先日の松下電器株式会社が主催・スポンサーとなった 「子供のためのシェイクスピア」の大阪公演は、いくら感謝・賞賛しても、しすぎることはないだろう。 演劇では、今まで「近鉄劇場」が、大きな役割を果たしており、 ”一年を通じて””高い水準の””バラエティに富む”演劇を上演しつづけてきており、 まさに「演劇を見る場所」になっていた。 加藤健一事務所ももう少なくともこの20年近くは、この小劇場を「常打ち小屋」としており、 この「場所」に「思い出」を持つ客も決して少なくない。 野田秀樹、キャラメルボックス、そして、より大衆演劇まで、 今にしておもえば、ほぼ「ずっと」やっていたことは、驚異であり、 関係者のセンスと能力と根気の蓄積は、とてつもないものだったようだ。 そして、水準に応じて、「客」が入る場所 であるということも、 とても大事なこと。それを実現していたのである。 これは、単なるハコモノ管理、または、「貸し館」では、ありえないことである。 単なる「貸し館」では、たとえば、 ・1年前でないと場所が押さえられない。 ・演目や、年間を通じた演者・興行内容に、コンセプトや色を出せない。 ・宣伝が重点化できない。 ・「いつもここ」という場所に、演者にとっても、客にとってもならない(予約とれなかったらダメだから) そして、 ・マネージメント付きのところしか、借りられない。 と、実は、「劇場の運営」と「会館の管理」とは、全く異なる(前者は後者を含むが)行為なのである。 八尾市、このオリンピックでは、柔道の野村、卓球の福原を始め11人のオリンピック選手をサポートする 子供服トップメーカー「ミキハウス」のある街である。 (100人もの運動選手を社員にしたりして支援してるそうで、大半は無名選手またはマイナー競技(有名なのは2人位?)とのことで、「勝ち組乗り」では無いこうした企業もあることは協調しておきたい。この企業そのものの事はよく知らないが。) また「久宝寺寺内町」の歴史を汲む街である。 (故横山やすしさんが、セスナを飛ばしてたのは、ここの八尾空港からである。) そして、このプリズムホールは、近鉄八尾駅前徒歩3分程度の場所にあり、 ほぼ各市町村にある市営ホールの中でも、かなり活発&意欲的に活動を続けているホールである。 八尾市のとりくみは、まちづくりも含めて、かなり、高い水準にあるものだと思うし、 このホールの活動の活発さも、そうした基礎に根ざすものであろう。 ただ、残念なことなのだが、 今回、加藤健一事務所が大阪で行った、たった2回(2夜)の公演の初日は、 20年近く、この劇団を見続けている僕としては、信じられないほどの不入りであった。 今までは、大体「"金"夜・"土"昼&夜・"日"昼」の4回公演を打っていたのにである。 多分4割程度の入り、150人も入ってなかったのではないだろうか。 芝居は、珍しく、加藤健一自身の演出だったが、 「ロボット」マイムも使う、写実劇としては、極めて冒険的な試みながら、 (「瞬き」「各関節・筋肉の停止」「逆回し」など、VTRならどうということない、ひとつひとつが、ものすごい苦労のはずである。 また、様式化された「マイム劇」(昔の惑星ピスタチオのように)なら、 「様式」として「ロボットらしさ」で客も納得するところだが、 「人間とロボットが実際に接して違和感や親しみを抱く」という状況を客に共感させるまでに至らないといけない。 さらには、「ロボット的なロボット」と「人間的なロボット」「人間的になっていくロボット」まで、演じて初めて成立する劇!) 俳優の身体のすみずみまで、コントロールされ、意図の徹底した演技を基礎に、 一見奇想天外な「近未来ロボットもの」でありながら、 ロボットを扱うことにより、むしろ「人間」を純粋に見つめる という素晴らしい舞台が展開した。 もちろん、題名どおり「喜劇」であり、笑えるところ、ほほえんでしまうところも、多くあり、 軽快なテンポで2時間半はあっというまだった。 ロボット("アクトロイド")の女性が、人間に恋をする という ある意味SFではありふれたような設定から、 とても細やかな愛情・恋に対する恐れとときめき、自我の目覚めなど、 人間そのものをやさしく見つめる舞台となっていた。 最後の「オチ」は、名脚本家エイクボーンならではの「キメ」であった。 さらに、もしかしたら、サービスかもしれないが、 エンディングの、ロボットマイムの役者が総出(それだけ出演の役者含む)での 「群舞」というか、スピード感あふれる、ダンシングシーンは圧巻であり、 その中で、ひときわ、ふっきれたような満面の笑顔で、身体を自由自在に弾けさせる 主演の加藤忍は、これまで、それこそ「若い頃」から見てきた僕のとっても、 とても印象的であった。 本編でのセリフ・演技も、情感にあふれ、目頭が熱くなるものであったのだが、 それとはまた別の面で「きっちり、演技する」という特徴を持つ彼女が 思わず「ふっきれた」楽しそうな面を(もうセリフも無いし・ドラマは終わった後であるし) 見せてもらえたのは、一日の疲れをふきとばしてくれたように思う。 今でもあの笑顔と、全く、矛盾なく一致する肢体のリズムあふれる動き・踊りのスピード感は、 思い浮かぶ。実際には、「自由に」「気楽に」あの集団の、複雑なダンスがキマるハズもなく、 それらも、含めて、プロの仕事なのだが、 そのプロのレベルでの、プロを突き詰めた者にのみ許される「楽しみ」「開放」を見た思いがした。 そしてまた、「ああ、この人は、本当に、芝居が、舞台が、そして、言葉と身体で演じることを愛しているなあ」と そう、素直に実感できる舞台であった。 これほどの舞台を100人になるかならないかのガラガラの劇場で演じる者は モチベーションを高めるのにいかばかりであったろうか? 東京では連日公演しても、SOLDOUTクラスなのに…。 客は、客席の照明が暗転したら、あとは舞台だけ見ればよいが、 役者からは、客席が見える…のだから。 しかも、駆け出しの小劇団の不条理劇でも、実験劇でもない、 トレーニング・演出・演技・役者・舞台美術・音楽・照明、それに脚本、 全てが高水準の(好き嫌いはあるだろうが)これほどの公演が…。 八尾市の努力に感謝しつつ、 「近鉄劇場」時代との差を考えると、 ・永年やってきた場所と異なる ・毎回、演じる場所が異なる(または大阪公演が無い) ・ずっと、芝居をやってるところ ではない ・宣伝効果としても、クラシックファンや、ジャズファンや、ファミリーコンサートファンに、演劇の催しを案内することになる また、 ・「次回もココ!!」と言えない(多分、次回は、八尾市は招聘しないのかもしれない)
ということは、実はかなり大きいと思う。 そして、もしかしたら、 ・大阪市内でない ことも、やはり、有利には決して働かないだろう。プラス30分でよい場所ではあるのだが。 とはいえ、八尾のこのホールが、「高水準の演劇をいつも呼んでくれるところ」となったら、 この場所の不利さは、「習慣」の問題程度でおさまるとは思うが(今のところ「心理的」には遠い)。 大阪市内にせよ、周辺市町にせよ、大小の新しいホールはたくさんある。 また、文化一般に限らない「女性」「勤労・労働」などを冠したものを含めるとさらに多い。 しかし、大半は、「貸し館」であり、 また、主催にせよ「偏りなく」ということになる(まあ、それすら出来るところは少ないのだが)。 1つしかなければ、偏りなく、色づけなく、というのは、やむをえないだろうが、 数多くあるホールが、それぞれ、「得意」な分野(スタッフを雇い入れる段階で決まる)を 設定して、伸ばすことで、どれだけの文化的な「豊饒」が得られるか、 その可能性に、ホール運営関係者(というか、行政)は、気づいてほしい。 逆に言えば、今、「殺そう」としてる「可能性」について…。 近鉄劇場は、決して、設備が、群を抜いて、高水準でもなければ、建物が「近代的」でもなかった。 (なにしろ、映画館を改造して使ってたので、とうとう構造上問題が出たから…というのがオモテ向きの閉鎖の理由なくらいなので。 (本当かもしれないけど。いずれにせよ古い建物だったようだ。) しかし、それが失われたときに、数あまたあるホール・運営者のどれもが、 その「後継者」となりえていない、今の大阪の状況を、振り返っても良い時期に来ていると思う。 八尾市さんが、今回招聘していただいたことに敬意と感謝を表しつつ、 今後、どのような「継続性」を、加藤健一事務所および、演劇上演に対して示していかれるか? そして、今回の不入りの(2日目の金曜は大分入ったようだが)改善点をどう見るか? (もちろん、ゆず や B'z なら、どんなやり方しても、「入る」のだが、そうじゃなくって…) そうしたことを、せっかくの意欲を持ってとりくまれたのだから、ぜひ、伸ばして行っていただきたい。 「上司」の中には、 「++君が良いと言ってたカトケンだが、不入りじゃないか! 行政はこれからは実績評価だ! だから、もうカトケンはだめだ! 民間を見習え!」と、 民間の近鉄や松下がこれまでやってきた(やってる)文化事業のことも知らずにうそぶく優等生役人もおられるかもしれないが(居なかったらごめんなさい)、 ぜひ、「興行」としてのノウハウと企画を補強して、「プロダクション」として育っていかれることを切に願う。 あと、大阪市内のホールの人たち、「貸し館」「団体対応」以外にも、横で役割分担したら、イロイロできることありますよ! あと、「大阪好きやねん」とか言ってる企業・行政のかたがた、「出来ること」はたくさんありますよ! と、最後に激励or懇願しておきたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004.08.25 21:40:37
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