ロッカーからお泊まりセットを取り出して、今夜の宿に向かう。
母親は既に他界、銀行勤務の兄一家は福岡に、独身の弟はカーディーラー勤務で仙台にいる。
家の近くのコンビニで弁当と味噌汁2つずつとビール1缶、天然水1リットルを買って、家に向かう。ビジネスホテルよりもネットカフェよりも不便だけれど金のかからない家。今は誰も住んでいないから、鍵を開けてからスマホで照らして、ブレーカーを上げる。夜間に訪ねて来る人もいないから、玄関の灯りは消す。売りに出す算段はしているから細かな荷物はだいぶ片付いたけれど、介護施設に入所している父親が戻ってこないとも限らないので、仏壇も含めてまだ大型家具は残してあるし購入希望者内覧用にと電気ガス水道も契約されたまま。ほとんど使わず基本料金のみ払ってはいるわけだから、もったいないけれどったって、俺の金じゃないし。SDGsの意味では別にもったいなくない。むしろ、貢献しているのかもしれない。
お泊まりセットから、パジャマがわりのジャージ上下と下着、バスタオルを出し、シャワーを浴びる。しばらく使っていなかった水は、やはり臭い。
さっぱりしてから、台所でコンロのガスの元栓を開き、買ってきたペットボトルの水を小鍋で沸かして、味噌汁のカップに注ぐ。飲み頃になるまでに、ハンガーに明日のシャツやネクタイをセットし、押し入れから布団を出し、布団乾燥機で布団の湿り気と匂いを飛ばす。
食べ終わり、弁当と味噌汁の容器を袋に入れ、持ち帰るのを忘れないように明日の荷物の横に置いた。ゴミを残しておくと家の中が臭くなる。次に、朝食用の弁当と味噌汁をテーブルに置き、布団乾燥機を外し、きちんと元に戻し、缶ビール片手に布団に潜り込もうとし、
おっといけない、その前に御仏壇にご挨拶。手を合わせて念じる。お線香は無しで。火事が怖い。
電気を消して布団に潜り込んだものの、布団乾燥機の予熱が冷めてきたら、
古い一戸建ての宿命よ、底冷えがする。少しは寒くないだろう二階の電気を付けて雨戸が閉まっているのを確認してから下におり、布団とスマホとビールを仏間から持って上がる。暗い中での鑑賞は目によくないらしいから、電気を点けたままビールを飲みながらスマホで映画を探している内に寝落ちした。