世界を核戦争へと導こうとしている勢力に従属している岸田首相
NATO(北大西洋条約機構)の首脳会談が7月9日から11日にかけてアメリカのワシントンDCで開催され、ウクライナや東アジアの問題が話し合われたという。この会議に岸田文雄首相も出席した。 ウクライナの戦乱は欧米の好戦派がソ連消滅後にNATOを拡大、「新バルバロッサ作戦」を始めたことが原因だ。その作戦が西側諸国の思惑通りに進まず、ウクライナ軍は崩壊しただけでなく、NATO諸国の兵器庫も空になり、内部分裂が始まった。 そのNATOでは事務総長がイェンス・ストルテンベルグからマーク・ルッテへ交代になる。ルッテはオランダの首相を務めている人物で、ロシアを敵視、「ウクライナの勝利を確実にしなければならない」と主張している。オランダにはロシアと戦う力がないが、NATOの主要国が揺らぐ中、NATOという看板を背負ったルッテは張り切っている。 2014年2月にアメリカ政府がネオ・ナチを利用したクーデターをキエフで成功させ、ビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したが、その後、ロシアと中国は急速に接近して同盟関係を結んだ。ライバルを分断するという基本戦略を西側の好戦派は壊してしまったわけだ。その関係を揺さぶろうというのか、NATOの幹部はウクライナの戦闘で中国がロシアを支援していると非難していたが、御笑種である。 岸田に与えられた任務は揺らぐNATOを日本に支えさせることなのだろうが、彼は出発する前、「インド太平洋のパートナーとNATOの持続的な協力関係を確認する機会としたい」と強調していた。 アメリカはインド洋から太平洋にかけての海域で軍事同盟を編成しようと画策、オーストラリア、インド、そして日本と「クワド」を編成している。また、ストルテンベルグNATO事務総長は2020年6月、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言した。 2021年9月にはオーストラリア、イギリス、アメリカがAUKUSなる軍事同盟を創設したとする発表があり、アメリカとイギリスはオーストラリアに原子力潜水艦の艦隊を建造させるために必要な技術を提供するとも伝えられた。山上信吾オーストラリア駐在大使はキャンベラのナショナル・プレス・クラブで2022年11月14日、日本がオーストラリアの原子力潜水艦を受け入れる可能性があると表明している。 岸田文雄政権は2022年12月16日に「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の軍事関連3文書を閣議決定、2023年度から5年間の軍事費を現行計画の1.5倍以上にあたる43兆円に増額して「敵基地攻撃能力」を保有することを明らかにした。着実に日本はアメリカの戦争マシーンと一体化しつつある。 こうしたアメリカ主導の軍事同盟が表面化する前、同国の国防総省系シンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書には日本へミサイルを配備する計画が書かれていた。GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画が記載されているのだ。 まず2016年に与那国島でミサイル発射施設が建設され、17年4月には韓国でTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムの機器が運び込まれ始める。 2013年2月から韓国の大統領を務めた朴槿恵は中国との関係を重要視する政策を推進、THAADの配備に難色を示していたのだが、朴大統領がスキャンダルで身動きできなくなっていたことからミサイル・システムを搬入できた。結局、朴槿恵は失脚している。 THAADが韓国へ搬入された後、2019年に奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも自衛隊の軍事施設が完成した。ミサイルが配備されることになる。さらに波照間島を軍事拠点にしようとしているようだ。 ウクライナでアメリカがロシアに圧倒された2022年の10月、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診している」とする報道があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。自力開発が難しいのか、事態の進展が予想外に早いのだろう。 トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートルという。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。 そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。当初、2026年度から最新型を400機を購入するという計画だったが、25年度から旧来型を最大200機に変更するとされている。 さらに、フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)も取り込んでJAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)なるものを作り上げ、アメリカの軍事顧問団は金門諸島と澎湖諸島に駐留して台湾の特殊部隊を訓練していると伝えられている。 NATOの初代事務総長でウィンストン・チャーチルの側近だったヘイスティング・ライオネル・イスメイはNATOを創設した目的について、ソ連をヨーロッパから締め出し、アメリカを引き入れ、ドイツを押さえつけることのあると公言しているが、実際はアメリカやイギリスの支配層がヨーロッパを支配することにある。 アメリカやイギリスの支配層とは、ウォール街とシティを拠点にしている金融資本にほかならない。この勢力はフランクリン・ルーズベルトを中心とするニューディール派と対立していたが、ルーズベルトが1945年4月に急死、その翌月にドイツが降伏、その直後にイギリスのウィンストン・チャーチル首相はソ連への奇襲攻撃を目論み、JPS(合同作戦本部)に対し、ソ連に対する奇襲攻撃作戦を立案を命令、そして5月22日にアンシンカブル作戦は提出された。 その作戦によると、攻撃を始めるのはその年の7月1日。アメリカ軍64師団、イギリス連邦軍35師団、ポーランド軍4師団、そしてドイツ軍10師団で「第3次世界大戦」を始める想定になっていたが、この作戦は発動していない。その理由は参謀本部が5月末に計画を拒否したからである。(Stephen Dorril, “MI6”, Fourth Estate, 2000) この奇襲攻撃作戦が頓挫した後にチャーチルは下野するが、1946年3月に彼は冷戦の開幕を告げ、47年にはソ連を核攻撃するようハリー・トルーマン米大統領に働きかけている。その後、アメリカでは軍の内部で大戦の直後からソ連に対する先制核攻撃が計画された イギリスとアメリカの支配層は1948年にACUE(ヨーロッパ連合に関するアメリカ委員会)を創設、翌年の4月にはNATOが作られた。当初の参加国はアメリカとカナダの北米2カ国、ヨーロッパはイギリス、フランス、イタリア、ポルトガル、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、ベルギー、オランダ、そしてルクセンブルクだ。 大戦でソ連はドイツと死闘を演じ、2000万人以上の国民が殺され、工業地帯の3分の2を含む全国土の3分の1が破壊されていた。そうした惨憺たる状態だったソ連が西ヨーロッパへ軍事侵攻する余裕はない。当然、西側の人びともわかっていたはずだ。 大戦の終盤、イギリスとアメリカはドイツが降伏した後のヨーロッパを見据え、コミュニストが主体だったレジスタンスを抑え込む準備を始めている。そして作られたゲリラ戦組織がジェドバラである。 戦争が終わった後、その部隊を基盤にして米英両国はCCWU(西側連合秘密委員会)の下に秘密部隊を組織、NATOが創設されると秘密部隊はその中へ組み込まれた。1951年にNATOの最高司令官はCPC(秘密計画委員会)を設置、その下で秘密部隊は活動するようになる。CPCの下部期間がACC(連合軍秘密委員会)だ。 秘密部隊は全NATO加盟国で設置され、それぞれ固有の名称がつけられている。イタリアのグラディオは有名だろう。こうしたNATOの秘密部隊は米英の情報機関、つまりCIAとMI6のコントロール下にあった、いや「ある」だろう。このネットワークは米英支配層がNATO各国政府を監視、コントロールするために使われてきた。NATOへ加盟するためには秘密の反共議定書にも署名する必要があると言われ(Philip Willan, “Puppetmaster”, Constable, 1991)、「右翼過激派を守る」ことが秘密の議定書によって義務づけられているという。コミュニストと戦うために彼らは役に立つという理由からだという。(Daniele Ganser, “NATO’s Secret Armies”, Frank Cass, 2005) 第2次世界大戦でドイツ軍と戦ったのは東部戦線のソ連と西部戦線のレジスタンス。当時のヨーロッパ人はこうした事実を知っていた。フランスやイタリアでコミュニストの人気が戦ったのはそのためだが、アメリカやイギリスの情報機関はそうした状況を変える秘密工作を展開することになる。そうした工作が特に盛んだったのはイタリアで、選挙への介入だけでなく、クーデター計画は爆弾テロを繰り返した。工作資金の送金で中心的な役割を果たしたのがIOR(バチカン銀行)。その不正送金が発覚し、「バチカン・スキャンダル」と呼ばれるようになる。送金先はポーランドの労働組合「連帯」だった。 大戦後、アメリカの支配層はローマ教皇庁と共同でナチスの幹部らを保護、逃走させているが、その関係はその後も続いた。1970年代までそのネットワークの中心にいたジェームズ・アングルトンはCIAの幹部で、彼の人脈にはジョバンニ・バティスタ・モンティニ、後のローマ教皇パウロ6世も含まれていた。パウロ6世の右腕と呼ばれていたポール・マルチンクスは後にIORの頭取に就任する。 このルートでは資金だけでなく、当時のポーランドでは入手が困難なファクシミリのほか印刷機械、送信機、電話、短波ラジオ、ビデオ・カメラ、コピー機、テレックス、コンピュータ、ワープロなどが数トン、ポーランドへアメリカ側から密輸されたという。(Carl Bernstein, "The Holy Alliance", TIME, February 24 1992)連帯の指導者だったレフ・ワレサも自伝の中で、戒厳令布告後に「書籍・新聞の自立出版所のネットワークが一気に拡大」したと認めている。(レフ・ワレサ著、筑紫哲也、水谷驍訳『ワレサ自伝』社会思想社、1988年) CIAやMI6の指揮下、ヨーロッパで繰り返されたテロ活動とその「人脈にメスを入れようとした判事が現れる。ジョバンニ・タンブリーノである。同判事は1974年10月、イタリアの情報機関SIDのビト・ミッチェリ長官の逮捕令状を出し、ネットワークの実態を暴こうとしたと言われている。(Jeffrey M. Bale, “The Darkest Sides Of Politics, I,” Routledge, 2018) 米英情報機関を中心とするテロ人脈はアメリカのジョン・F・ケネディやフランスのシャルル・ド・ゴールも敵視していた。ケネディ大統領はソ連との平和共存を訴え、ド・ゴールは大戦中にレジスタンで活動していた米英に従属しようとしない人物だった。 1947年6月にフランスで社会党系の政権が誕生した際、アメリカとイギリスの情報機関はジェドバラ系の秘密部隊を使ってクーデターを計画したのだが、その際にド・ゴールを暗殺する予定だったという。 この計画は事前に発覚したが、その計画によると、まず政治的な緊張を高めるために左翼を装った「テロ」を実行し、クーデターを実行しやすい環境を作り出するという流れだった。イタリアの「緊張戦略」と基本的に同じである。この事件ではフランスの情報機関SDECEが関与していたと疑われたが、調査を行ったのはそのSDECEの長官だ。(Daniele Ganser, “NATO’s Secret Armies”, Frank Cass, 2005) ド・ゴールに反発する軍人らは1961年にOAS(秘密軍事機構)を組織、その年の4月にスペインのマドリッドで秘密会議を開き、アルジェリアでのクーデター計画について討議している。会議にはCIAの人間も参加、シャルル・ド・ゴールの政策はNATOを麻痺させ、ヨーロッパ防衛をズタズタにしてしまうと非難していた。 1961年4月22日にクーデターは実行に移されるが、ケネディ大統領はジェームズ・ガビン駐仏大使に対し、必要なあらゆる支援をする用意があるとド・ゴールへ伝えるように命じている。CIAがクーデターを強行すれば、アメリカ軍と戦闘になるということだ。こうしたケネディ大統領の対応はCIAやアメリカ軍の好戦派を驚愕させたと見られている。結局、クーデターは4日間で崩壊した。フランスのクーデターを失敗させたとも言えるジョン・F・ケネディ米大統領は1963年11月にテキサス州ダラスで暗殺されている。(David Talbot, “The Devil’s Chessboard,” HarperCollins, 2015) クーデター後、ド・ゴール大統領はポール・グロッシンSDECE長官を解任、第11ショック・パラシュート大隊を解散させた。グロッシンはアメリカの破壊工作(テロ)機関であるOPCの初代局長でアレン・ダレスの側近だったフランク・ウィズナーと親しい。(David Talbot, “The Devil’s Chessboard,” HarperCollins, 2015) ケネディ大統領が暗殺されてから3年後の1966年にド・ゴール大統領はフランス軍をNATOの軍事機構から離脱させ、翌年にはSHAPE(欧州連合軍最高司令部)をパリから追い出してしまった。 フランスでは1968年5月から6月にかけてゼネラル・ストライキがあり、運動はフランス全土に広がった。「五月危機」だ。その翌年、ド・ゴールは辞任して政界から去った。後任大統領のジョルジュ・ポンピドゥーはアメリカとの関係を強化、SDECEの局長には親米派のアレクサンドル・ド・マレンシェを据える。 岸田が行っていることの意味を理解するにはNATOを理解する必要がある。NATOは防衛のための組織ではなく、支配の仕組みであり、ソ連消滅後には侵略の道具としての色彩が濃くなった。**********************************************【Sakurai’s Substack】