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カテゴリ:第6話 牙城クスコ
アンドレスは頭を下げたまま力強く出立の挨拶を述べると、決意と覚悟を秘めた蒼く燃える瞳で、真っ直ぐにトゥパク・アマルを見上げた。 その瞳に頷き返すトゥパク・アマルの瞳は、雄大な大地を悠然と流れる川のごとくに静かで、深遠である。 「しかと頼んだぞ。 アンドレス」 あの深く、低く、響く声で、トゥパク・アマルが言う。 「はっ!!」 再び、アンドレスが深く恭順の礼を払う。
驚いている眼前の若者と同じ目線になり、トゥパク・アマルは、いつ見ても美しいその切れ長の目元に強い光を宿し、アンドレスの蒼く燃える瞳をじっと見つめた。 「忘れるな。 いつ、いかなる時も、わたしはこのインカの地にあり、インカの民と共にある。 たとえ、その姿が見えなくなろうとも、わたしはそなたの中に宿っている。 だから、そなたの判断を信じて進め。 よいね」 そして、すっとその目を細めて、微笑んだ。
「行(ゆ)くのだ、アンドレス!!」
もはやトゥパク・アマルに届くほどにその背丈も体格も、そして、その放つ雰囲気も、雄々しく成長しつつあるアンドレスは、今、大きな重責をその身に受け入れ、十分に二万の軍団の将らしく見える。
だが、今までのアンドレスとは、どこか雰囲気が違う…――と、それだけは、確かだ、と感じていた。 ふとディエゴが目をやると、トゥパク・アマルも無言のままに、しかし、何かを感じ取るようにアンドレスを見つめている。
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