ギリギリと切歯扼腕しながら、ピネーロは部下たちを、いっそう険しい目で睨み据えた。
「市街地の住民たちに、妙な動きは無いか?」
やはり非常に難しい表情の部下たちが、畏まって応える。
「はい…――。
現在のところは、変わった動きは見られませんが…」
ピネーロは中年の貫禄を漲らせた厳(いか)つい肩をいからせながら、先刻から、しきりに苛々と顎鬚をさすっている。
やがて、低い、冷徹な声で、地を這うように言う。
「あのアンドレスのことだ……。
我が軍を完全包囲までしておきながら、飢え苦しむ住民を見捨てられず、結果、我が軍の補給路を完全に断つことを最後までしなかった。
そのアンドレスが、インカ族の住民たちまで水攻めに巻き込むことなど、絶対に、あり得まい。
水攻めを実行する前に、必ず、住民たちを逃がそうとするはずだ。
なれば、我らは、住民たちを逃さぬことが肝要。
即刻、ソラータの住民たちの見張りに回す人員を倍加し、夜を徹して監視を強めろ。
よいな。
絶対に、逃がすな―――」
「はっ!!」
激しい緊迫感を滲ませた彫りの深い横顔で、白人兵たちの冷酷な眼光が、一際、強く放たれた。
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≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。
≪ピネーロ≫
アンドレス軍が包囲網に封じたソラータのスペイン軍を指揮するスワレス大佐の副官。
スワレス大佐がアンドレス軍に捕虜として囚われてからは、実質上の指揮官を務めている。
かつてアンドレス暗殺計画の実行犯をも務めた、手段を選ばぬ冷徹で強硬な人物。
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